「社会と無関係のエンタメはダサい」が物議。『虎に翼』脚本家の言葉にある”危うさ”とは

「社会と無関係のエンタメはダサい」が物議。『虎に翼』脚本家の言葉にある”危うさ”とは

排他的かつ、根本的な疑問も抱く発言ではある

 一方で、たとえ他の作品ではなく、脚本家である自分自身に向けた言葉であったとしても、吉田氏が「自身の信条に合わない作品の性質を『ダサい』と言っている」ことは事実だ。たとえば、「自分はエンタメにも必ず社会性を入れるようにしています」という、あくまで自分の信条を主張する言葉選びをしていれば、今回のような炎上は起きなかっただろう。

 また、すでに多くの指摘がされている通り、「社会的な問題提起を含まないエンタメを作っている人や楽しんでいる人に失礼ではないか」や「どんな創作物であれ現実の社会の中で生み出されているので、究極的には社会と無関係なエンタメは存在しないのでは」という根本的な疑問も湧いてくるところもある。

 やはり、吉田氏には脚本家としての強い信条が確かにある一方で、取材中の一言としては、切り取られ方によって排他的とも受け取られうる危うさがある。

自身への批判の言葉が作品ともシンクロしている

 『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1)』(NHK出版) その上で、吉田氏が脚本家としての作家性を曲げないことを、称賛したいという気持ちも生まれてくる。

 というのも、番組内では「『虎に翼』には批判もあった」というナレーションと共に、画面に「人権意識が押しつけがましい」「露骨な差別シーンが不快」「朝から説教臭い」「制作者の思想が強すぎる」「ポリコレはつまらなくする」と、具体的かつ厳しい批判の声が並んでから、以下の吉田氏の言葉もあったからだ。

「物語で救われたい人とか、苦しい思いをしてきたとか、省かれてきた人とか、虐げられてきた人のために戦うっていうか、それは『エンタメを通していいものを作る』ってことが、イコール私の『戦う』だから。その人たちが面白いと思うものを書けたらいいなと、両立するものが作れたらいいなっていうのがベストの答えだし、なんかでも、そもそもそっちを楽しむ気がない人には多分届かないから、どうしたらいいのかなとは思う。まあ、私は自分が面白いと思うのを作るだけ」

 吉田氏の作品は『虎に翼』にしても、同番組内で吉田氏によるシナリオ創作の講座も映されたテレビアニメ『前橋ウィッチーズ』(TOKYO MXほか)にしても、抑圧を受けたり、何かを諦めていたり、さらには攻撃的な物言いをする人への「理解」を試みることが多い。

 そうした作品内の物語が、上記の吉田氏の「その人たちが面白いと思うものを書けたらいいな」という脚本家としての信条および、自身へ批判をする人へも「どうしたらいいのかな」と考えていることへシンクロしているように思えた。その上で、やはり「自分が面白いと思うのを作るだけ」という、自身の作家性を貫くことが伝わる言葉で締めているのだ。

 だからこそ、今回の番組内での排他的にも感じられてしまう発言および、Xでの言葉の切り取られ方のせいで、作品とは異なることで吉田氏への批判が集まったことが、ファンとしてはもどかしい。

 その上で、今回の番組内容そのものでは、吉田氏の社会性とエンタメ性を両立する脚本および、一貫した作家性は改めて素晴らしいと思えた。2026年春放送の『虎に翼』のスピンオフドラマ『山田轟法律事務所』も楽しみにしたい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF



配信元: 女子SPA!

提供元

プロフィール画像

女子SPA!

女子SPA!は出版社・扶桑社が運営する30~40代女性向けのWebメディアです。恋愛、結婚、仕事、育児、さまざまな人間関係や価値観など…“リアルを生きる女性たち”に役立つ情報をお届けします。