●弁護士からは「すでに限界」との声
一方、家族の問題にくわしい岡村晴美弁護士は、現状について、次のように指摘する。
「家庭裁判所では事件が滞留しており、調停期日が月に1回も入らず、2〜3カ月後に指定されるケースもあります。共同親権導入で事件数がさらに増えると言われる中、たった16人の増員で乗り切れるとは到底思えません」
岡村弁護士は、全国の裁判所職員でつくる「全国司法労働組合」の決議(2025年7月22日付)を引用し、現場の逼迫ぶりを説明する。
「現在でも、家庭裁判所では初回の調停期日が後ろ倒しになり、職員は昼休みも当事者対応をしなければならない状況で事務処理に追われていますが、これに加えて改正民法の施行によって事件数が増加すれば、職場が繁忙になることはもとより、適正迅速な事件処理の面でも大きな支障が生じることが危惧されます」(2025年7月22日付の全司法労働組合第82回定期大会決議)
少年事件は減少傾向とされてきたが、2023年には増加に転じている。岡村弁護士は「デジタル化が進んでも、人的・物的基盤が整っていなければスムーズな運用は困難で、マンパワー不足は解消されないでしょう」と強調する。
●共同親権で争点が複雑化、事件は増加必至
共同親権が導入されると、どのような変化が生じるのか。岡村弁護士は、申し立ての手続きの増加と争点の多様化を予想する。
「離婚調停や婚姻費用(生活費の取り決め)、面会交流など、従来から多かった手続きに加えて、監護者指定(どちらが子どもの生活を中心的にみるのか)や監護の分掌(子育ての役割分担)、居所指定(子どもがどこで生活するか)など、親権の使い方を細かく決めるための手続きが増える見込みです」
同一の父母間で並行する争いが増え、事件処理の複雑化は避けられないという。また、改正法では、DVや虐待のあるケースは単独親権を原則としたため、調停の冒頭からDVや虐待の有無を明らかにする必要が生じるという。
「当事者間の対立が激しくなる可能性が高く、事件1件あたりの処理時間は今まで以上に長くなると思います」
弁護士の間から「焼け石に水どころか焼け石に霧」との声が上がるのも、この見通しに基づく。

