東城さんの執拗な干渉に耐えかね、中村さんは突然の引っ越しを決意。残されたみのりは「次は自分たち」という恐怖を抱える。そんな状況の中、東城さんはさらに佐藤家へと標的を向け始めていて…。
忍び寄る視線と悪意
中村さんが突然引っ越してしまってから、東城さんが家の前を通る頻度が、明らかに増えた。朝、子どもたちを送り出すときにも。夕方、買い物帰りにも。まるで私たちの生活リズムを覚えたかのように。
最初は、偶然だと思い込もうとした。けれど、すれ違うたびに浴びせられる言葉で、偶然ではないと気づいてしまう。
「佐藤さんちょっと…。最近、旦那さんとの仲…大丈夫? 最近見かけないわよね」
「お子さんたち、ちょっと表情が暗いように思えて心配よ…。ご家庭の中でうまくいってないところがあるんじゃない?」
無邪気な顔で、悪意だけを押しつけてくる。笑顔なのに、目が笑っていない。それでも私は、とりあえず愛想笑いを返すしかなかった。
もちろん、わが家で夫と私が不仲ということもないし、子どもは毎日明るく楽しく暮らしている。東城さんがなぜ、不仲説を吹聴したがるのか心底わからず、ナゾに思うばかりだった。数日後、ママ友の一人が小声で忠告してきた。
「みのりさん……東城さんが、あなたの家のこといろいろ言って回ってるみたいよ」
「いろいろ……?」
「旦那さんが浮気してる、とか。子どもに問題がある、とか……」
胸が詰まり、呼吸が浅くなる。事実は一つもない。それなのに、噂は真実より早く、広く伝播する。
「東城さんこそ、数年前に旦那さんがひどい不倫してたみたいで大変だったのよ。それから『どこのうちもそんなものだ』って思いこみたいみたいで、関係ない人の話をでっちあげたり、ふくらませて噂したりしているみたいよ…」
ママ友のこの話で合点がいった部分もある。東城さんは「不幸な人」を作り上げて、相対的に自分は幸せだと思いたいだけなのかもしれない。大変だった事実があるにしても、なんて自分勝手な思想なんだろうか。
日常が奪われていく
ある朝、家族の見送りに外に出るとゴミ捨て場が目についた。そしてすぐに気づいた。ゴミ袋の向きが変わっている。
「……あれ?」
今朝と違う位置。袋の口がわずかに開いている。私の背中を、嫌な汗が滑り落ちた。その時、視線を感じて顔を上げると、東城さんが少し離れた場所からこちらを見つめ、にこっと笑った。その笑みはとにかく不快で、ねっとりとした雰囲気だった。
(まさか、家のゴミを漁られた?)
心臓が強く脈打ち、脚が震える。でも、証拠はない。私は、気づかないふりをするしかなかった。

