
2025年に多くの視聴者に衝撃を与えたドラマ「秘密 ~THE TOP SECRET~」のBlu-ray BOXが、9月24日(水)に発売される。清水玲子による傑作漫画を原作として2016年には映画化もされた同作が、満を持してのドラマ化。その期待を遥かに上回る完成度で多くの人々の心を深く抉った本作の魅力は、一体どこにあるのだろうか。ただのサスペンスやミステリーでは語り尽くせない、人間の心の奥底に潜む「秘密」。そしてそれに向き合う者たちの葛藤を描き切った魂の物語を、この機会にもう一度振り返る。
■長く愛される「秘密」の世界
ドラマの原作は、故人の脳から生前の記憶を映像として読み取るという画期的な架空の科学捜査「MRI捜査」を題材にした清水玲子の傑作漫画「秘密 -トップ・シークレット-」。同技術を駆使して迷宮入りした事件を捜査する警察庁科学警察研究所法医第九研究室…通称「第九」のメンバーの活躍を描く。
2016年の映画化から9年後、その独特な世界観と映像美で多くのファンを魅了した。そしてドラマでは、板垣李光人と中島裕翔という若手実力派俳優のW主演という新たな布陣が作品の世界を広げる。
ドラマ版では原作の持つ重厚な世界観を丁寧に再現しつつ、ドラマ独自の改変を加えたのもユニークなポイントだ。特に秀逸なのは中島が新人捜査官・青木一行と、板垣演じる薪剛の亡き親友・鈴木克洋を一人二役で演じたこと。原作では別々の人物として描かれる2人が同じ顔を持つことで、薪と青木の出会いがより運命的なものとして描かれた。
同じ顔を持つ青木に鈴木の面影を重ねてしまう度に、薪の孤独や悲しみが視聴者にも痛いほど伝わってくる。この改変は2人の間にある種の線引きともいうべき緊張感を生み出し、バディとして絆を育んでいく過程をより特別なものにした。物語はそうした2人の繊細な関係性を軸に、凄惨な事件の真相へと深く、深く潜っていく。
■張り巡らされた「秘密」と、脳に刻まれた痛みと切なさ
「秘密」のストーリーの魅力は、「死者の記憶を見る」というグロテスクでありながらも繊細な設定を最大限に活かした点にある。死者の記憶に残るのは「実際に目の前で起きた映像」ではなく、「脳が認知した映像」。死という極限の状況を前にした人間の脳は、“現実”を見ていないのだ。
たとえば第2話で描かれた、狂気に走った加害者の心理を丁寧に追っていくシーン。追い詰められた現実から逃げるために生み出した幻覚、小さな嘘の数々はどこまでも痛々しい。そして凶行を呼ぶきっかけとなったのが被害者本人の善意という点も含めて、現実でも起こり得る“すれ違いの哀しさ”を描いた。
もちろん、事情があったからと一方的な加害が正当化されることはない。しかしただ事実を追っていく捜査ではなく「犯罪者の内面に踏み込んで根源に触れる」というアプローチこそが、同作のストーリーを“単なるミステリー”の枠に留めておかないのだ。
被害者、加害者を問わず、死者の脳をのぞき込む第九の目に触れるのは赤裸々な“失われた世界”。愛、歓喜、希望といった世界から一転、裏切り、絶望、そして後悔といった人間の心の闇が映し出される。そうした記憶の断片から一筋の光を見つけ出し、第九は事件を解決に導いていく。
また本作のタイトルでもある「秘密」は、物語全体を貫く重要なキーワード。それは事件の真相という「秘密」、被害者や加害者が抱えていた心の「秘密」、そして第九のメンバーたちが決して明かせない心の奥底の「秘密」といった複数の“秘密”を指す。いくつもの「秘密」が複雑に絡み合う展開は、視聴者に息を忘れるような緊張感を与えた。
全編にわたってギリギリまで張り詰めた切迫感を実現できた理由。それは“心を蝕まれる”という繊細で困難な演技をやり切った、俳優陣の実力にある。
■正気と狂気の間を演じ切った俳優の熱演、板垣李光人の「静」と中島裕翔の「動」
本作の魅力を語る上で、俳優陣の熱演は欠かせない。板垣が演じたのは天才的な頭脳を持つ法医第九研究室の室長、薪剛。原作でも「美貌の室長」と称される彼の中性的で儚い美しさは、まさに薪そのものだった。死者の記憶に触れるたびに精神がすり減っていく薪の脆さ、それでも事件の真相を追い求める内に秘めた熱さ。さまざまなトラウマに苦しめられながらも諦めない薪という男を、鬼気迫る表情で表現した。
一方、薪の部下となる青木一行を演じたのが中島。彼は正義感に燃えるまっすぐな新人捜査官だったが、凄惨な事件の記憶に触れ続けるうちに精神が疲弊していく。第3話では薪から「君のように見た物や聞いた物をそのまま信じ、受け止めるような単純な人間は簡単に引きずり込まれるんだよ」と手厳しく叱責され、実際に幻覚で死の危機に直面することも。
それでも前を向いて事件に挑み続けることを決めた青木の苦悩を、中島は繊細な表情の変化で巧みに演じ分けた。第9話で姉夫婦の悲劇に直面して薪に助けを求めたときのか細さ、そして最終話で追い詰められた薪を救うために見せた愚直なまでの熱さ。板垣李光人の「静」の演技と中島裕翔の「動」の演技が互いに響き合い、作品全体に深い奥行きを与えている。
死者の記憶が張り巡らせる狂気的な罠、権力を握る者の策謀…さまざまな意味で追い詰められる薪と青木。お互いを支え合いながら、それぞれが抱える正義のために衝突することもある。それでもストーリーのラスト、青木が薪を真の意味で救うシーンのカタルシスは2人の演技力なくしては成り立たなかっただろう。
9月24日(水)に発売されるBlu-ray BOXにはキャストのメイキングやインタビュー、オフショットのほか、秘蔵ハプニング集やサプライズバースデーといった舞台裏&企画映像が特典映像として収録。またファンにはたまらない、ドラマをさらに楽しめる赤ペン瀧川の解説動画も収められている。
全11話というドラマだからこそできる丁寧な映像作りは、映画を見た人にとっても新しい原作の魅力を発見できるはず。Blu-ray BOXは再びあの美しい記憶と向き合い、その裏側にあるキャストやスタッフの熱意に触れる絶好の機会を与えてくれるだろう。

