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調査の背景
PISAやTIMSSに代表される国際的な学力調査において、日本の子どもたちは長年にわたり、算数・数学分野で世界トップレベルの学力を示してきました。
しかし、これらの調査は同時に、算数・数学に対する「自信」や「楽しい」といった肯定的な意識が、国際平均と比べて低いという課題も浮き彫りにしてきました。「能力は高いが、自信はない」というこの相反する傾向は、日本の教育における長年の課題となっています。
これまでの調査の多くは、算数・数学という広い領域を対象としていました。そこで同調査では、より基礎的なスキルである計算に焦点をあてました。
算数・数学の基礎的な土台である計算においても、「自信」や「好き」といった肯定的な意識をもつ子どもが国際的に低いままなのでしょうか。同調査では、この計算に対する意識が、小学4年生から中学2年生にかけて、他国と比較してどのように変化するのかを検証しています。
(1) 日本国内での学年変化:「好き・自信」は中学で急落
はじめに、日本国内の傾向として、小学4年生から中学2年生にかけて、計算に対する意識がどのように変化するのかを見ています。

図1 日本の小学4年生(a)と中学2年生(b)における「計算が好き」と「計算に自信がある」の回答分布 「あなたは計算が好きですか(縦軸)」および「あなたは計算に自信がありますか(横軸)」という質問に対する、回答(そう思う、ややそう思う、どちらともいえない、あまりそう思わない、そう思わない)の割合(%)を示す分布
図1(a)は、日本の小学4年生による、「計算が好き (縦軸)」および「計算に自信がある (横軸)」に対する、5段階評価の回答の組み合わせが、それぞれ全体の何パーセント(%)を占めるかを示した分布です。 色が濃いマスほど、その回答を選んだ子どもの割合が高いことを意味します。
例えば、右上の最も色が濃いマスは26.1%となっており、これは小学4年生の4人に1人以上が「計算が好き(そう思う)」であり、かつ「計算に自信がある(そう思う)」と回答したことを示しています。
このように、回答は肯定的な意識を示す右上の領域に集中しており、小学4年生の時点では計算に対して前向きな意識が大多数を占めていることがわかります。
一方、図1(b)の中学2年生の結果を見ると、その傾向は一変します。小学4年生では26.1%を占めていた右上の最も肯定的な領域(「好き」かつ「自信あり」)は9.7%へと大きく割合を減らしました。
代わりに回答が集中したのは「どちらともいえない」の中間層(15.1%)や、左下の否定的な領域です。この2つの回答分布の比較から、中学に進む過程で、計算に対する前向きな意識が急速に失われ、否定的・中間的な意識へと大きく分散していく様子がわかります。
