(2) 計算に対する意識の国際比較:「好き」「自信」は他国より低く、中学でさらに急落
日本国内で見られた、計算に対する意識の低下傾向は、他国と比較してどうなのでしょうか。

図2. 調査対象6ヶ国における、計算への意識の変化および、国・学年ごとの計算の習熟度 (a) 「計算が好き」「計算に自信がある」の平均値の変化(●: 小4、×: 中2)。(b) 国別・学年における、各国共通の計算問題15問の平均正答率。なお、小4と中2では、それぞれ学年に合わせた難易度の異なる問題を使用。また、日本と他国では実施形式や解答形式などが異なるため、参考値としての比較である
そこで、計算への意識の変化を6ヶ国で比較するために、「あなたは計算が好きですか」「あなたは計算に自信がありますか」という2つの質問に対する5段階評価を数値化[注1]。そして、この平均値を散布図としてプロットしたのが図2(a)です。
横軸に「計算への自信」、縦軸に「計算が好き」をとり、小学4年生(●:始点)から中学2年生(×:終点)への意識の変化を、国別の矢印で示しています。グラフの右上(5点に近い)ほど、肯定的(好き・自信がある)な状態を意味します。
[注1] :「そう思う」を5点、「ややそう思う」を4点、「どちらともいえない」を3点、「あまりそう思わない」を2点、「そう思わない」を1点として換算し、国・学年ごとに「好き」「自信」それぞれの平均値を算出。
まず、日本だけでなく、調査したすべての国で、矢印が左下(否定的な回答)へ向かっていることがわかります。これは国際的に共通した傾向であり、学年が上がり学習内容の難易度が上がるにつれ、「好き」「自信」といった肯定的な意識が保ちにくくなるためだと考えられます。
次に、日本の結果(赤色の矢印)に注目します。小学4年生(●)の時点で、すでに他5ヶ国と比較して「好き」および「自信」がともに低い位置していることがわかります。
中学2年生(×)になると、日本は「好き」「自信」ともに大幅に低下(矢印が長い)。 さらに、日本は6ヶ国の中で唯一、「どちらともいえない」にあたる平均値3.0を下回る「否定的」な領域に位置しており、国際的に見ても計算に対して否定的な意識を持っていることがわかりました。
(3) 計算力の国際比較:意識とは対照的に、計算力は高い水準を維持
計算への意識に関しては、他国に比べて日本の子どもは否定的な傾向にあることがわかりました。では、客観的な「計算力」についてはどうでしょうか。
図2(b)は、小学4年生および中学2年生の各国の「計算テストの平均正答率」を示したものです。問題内容は学年に合わせた別の難易度となっています(備考参照)。
なお、日本と他5ヶ国では実施形式や解答形式が異なるため単純な比較はできませんが、同分析ではすべての国に共通して出題された以下の15問を使用しました。
<小学4年生>
3桁どうしの足し算(2問)/ 2桁どうしの引き算(1問)/ 3桁どうしの引き算(2問)/ 2桁以上の数を使った掛け算(5問)/ あまりのある割り算(1問)/ 分数の足し算(2問)/ 小数の足し算(2問)
<中学2年生>
正の数・負の数の計算(6問)/ 文字式の計算(4問)/ 一次方程式(5問)
小学4年生の時点では、日本の正答率は75%と、他国と比較しても標準的な水準でした [図2(b)左]。 注目すべきは中学2年生の結果です [図2(b)右]。
学習内容が難しくなる中学2年生の計算問題において、他国の正答率が50%程度にとどまりましたが、日本の正答率は80%と、相対的に高い正答率を示しました。
このように、意識面では否定的な傾向が見られる一方で、実際の計算力においては、学習内容が高度になっても基礎学力が着実に定着していることがうかがえます。
