まとめと考察
今回の調査では、特定の地域に限られますが、日本の子どもたちの「計算に対する意識」と実際の「計算力」との関係を、他の5ヶ国と比較しました。その結果、「計算が好き」「自信がある」と答えた割合は、日本の小学4年生では他国と比べて低い水準にあることが明らかになりました。
中学2年生になると、その割合は一段と下がり、6ヶ国の中で唯一、否定的な領域に入ることがわかりました。
一方、計算テストの成績に着目すると、小学4年生の時点では他国と比較して際立って高い水準ではありませんでしたが、中学2年生では相対的に高い正答率を示しました。
このような「能力は高いが、自信は低い」という傾向は、PISAやTIMSSなど他の国際調査で指摘されてきた、日本の算数・数学全般に共通する特徴とよく似ています。今回の結果から、算数・数学の基礎的な土台である「計算」においても、同様の傾向が確認されました。
以上の結果からは、日本の子どもたちの計算に関して、主に2つの点が示唆されます。
第一に、小学校から中学校にかけて、日本の学校教育が十分に機能し、高い計算力が着実に定着しているという肯定的な側面です。実際、小学4年生の時点では正答率が他国より高くなかったにもかかわらず、学習内容が難しくなる中学2年生の段階で他国に比べて高い正答率を示しました。
第二に、その高い能力とは対照的に、「好き」「自信」といった肯定的な意識は国際的に見ても極めて低く、これは改善すべき課題であるという点です。計算に対する自信の欠如は、将来的に学習意欲や進路選択の幅を狭めてしまうおそれがあります。
このように同調査結果は、計算力を確実に身につけさせると同時に、その能力に見合った「自信」や「学ぶ意欲」といった肯定的な意識をいかに育むかが、今後の日本の教育における重要な課題であることを示しています。
例えば、同調査を含む様々な国際調査で明らかにされてきた「世界トップ水準の算数・数学力」という強みを、客観的な事実として子どもたち自身や周囲の大人が再認識し、肯定的に捉えていくことが重要かもしれません。
課題だけでなく、こうした「良い点」にも目を向けることが、自信を回復し、学ぶ意欲を育むきっかけになる可能性があります。
今回の報告は、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」に基づく第5回目の報告となります。同財団では今後も継続的に調査結果を公表し、国や学年ごとの特徴を明らかにしていく予定です。
調査方法(スプリックス教育財団調べ)
調査テーマ:基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025
調査時期:2025年4月〜7月
調査対象:世界6ヶ国の小学4年生および中学2年生相当の子ども
調査方法:
(1)インターネットパネル調査 [アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国]
(2)調査参加校の教室での実施 [日本]
調査主体:スプリックス教育財団が以下に委託して実施
(1)クロス・マーケティング (2) スプリックス
回答者数:
(1)各学年150人 [アメリカ・イギリス・フランス・南アフリカ・中国]
(2)小4: 300人程度、中2: 100人程度 [日本]
留意事項:
・日本国内の調査では、ある特定の地域に注目し、子どもたちの意識や学力の「経年変化」を継続して追跡することを目的としています。そのため、日本の調査対象は、無作為抽出によるものではありません。しかし、小学4年生・中学2年生ともに同地域内の学校を対象としているため、同レポートで示す学年間の変化は、調査地域の違いによる影響を排除したものとなっています。
・日本のデータは匿名性保持のため、正確な調査対象者数を非公表としています。
・同レポートでは分析の便宜上「日本」と表記していますが、これは日本全体を代表する結果ではなく、あくまで当該地域の結果である点に留意してください。
・計算テストの内容は後述の「備考:計算テストの内容」を参照してください。
[備考]:計算テストの実施概要
同調査で実施した計算テストの形式は、参加国によって内容が異なります。
・インターネットパネル調査のグループ: TOFASの問題を一部抜粋した短縮版(全32問)を実施。回答形式は4肢択一の選択式です。
・教室で参加したグループ: 学校の教室において、国際基礎学力検定TOFASの計算テストを受験しました。回答形式は、選択式と記述式を併用しています。
同レポートにおける6ヶ国・2学年(小4・中2は学年に合わせた別の難易度)の計算習熟度の比較では、両グループに共通して出題された問題15問の平均正答率を用いて行っています。比較で用いた15問のほとんどは、当該学年の前学年で学習する基礎的な計算問題(問題構成は本文参照)です。例えば、小学4年生では「43×2」、中学2年生では「(5x−9)−(−x−4)」といった内容が含まれます。
なお、TOFAS(国際基礎学力検定)の詳細は下記より確認してください。
TOFAS - 国際基礎学力検定:https://tofas.education/jp/
[備考]:関連調査一覧
国際調査
・OECD生徒の学習到達度調査2022年調査(PISA2022)
・国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)2023
公益財団法人スプリックス教育財団
https://sprix-foundation.org/
(マイナビ子育て編集部)
