学年末懇談会で鳴海さんが大声で担任へ詰め寄り、教室は凍りついた。教頭先生が介入する事態となり、保護者たちは不安と疲れを抱えたまま懇談会を終える。保護者間にも緊張が広がり、状況がどう収束するのかが見えないまま日々が過ぎていた。
学校から届いた封筒の知らせ
鳴海さんの剣幕に保護者たちが沈黙し、教頭先生も介入することになったあの懇談会から、数日が経ったころ。子どもの連絡袋を通じて、保護者達に封書が配られた。
中に入っていた書類は「保護者の方々へ」という見出しから始まっていて、胸がざわついた。さらに下へとゆっくりと落としていく。そこには淡々とした文章が並んでいた。
「先日の懇談会では、保護者の皆様にご心配をおかけして申し訳ありません。今後もご理解を得られるよう様々な説明をさせていただきますので、なにとぞご理解いただければ幸いです」
具体的な保護者の名前は記載されていない。それでも、誰のことなのかは多くの保護者が分かっているはずだった。あの場にいた人たちなら、なおさら。私はふぅ、と小さく息を吐いた。
あの日、教頭先生と話した後の鳴海さんは、肩を落として小さくなって帰っていったと、他のクラスの保護者に聞いた。どんなやり取りがあったかわからないけれど、あれ以来鳴海さんの「大暴れ」に関するうわさを耳にすることはなくなっていた。
鳴海さんによって生まれていた緊張感や不安、子どもたちへの影響などの重たい空気が、今後少しずつでも改善していく兆しかもしれないと思っていた。
優斗くんの転校と娘の涙
それからしばらく経ち、春休みが迫った頃だった。帰宅してからというもの、美羽が浮かない表情をしていた。夕飯の準備をしながら、私は美羽に訊ねた。
「美羽、学校で何かあった?」
すると美羽は、残念そうに話し始めた。
「実はね、優斗くん、転校しちゃうんだって」
思わず夕飯を準備する手が止まった。優斗くんは、鳴海さんの息子さんだ。鳴海さんの無茶な要望で親子揃って不安視していたけれど、娘の話では優斗くん自身は明るく、みんなと仲良しだった。
美羽は続けて話した。
「先生は『おうちの人のつごうで』って言ってた。なにかわからないけど」
美羽は先生の配慮も汲み取りつつ、立ち入れないこととはいえ、優斗くんの気持ちを思うと胸が痛む。また、友人との別れに向き合う目の前の小さな娘に、気の利いた励ましも思い付かず、私は「そっか」としか答えることができなかった。
保護者間では「何があったのだろう」とさまざまな憶測が飛び交った。優斗くんの家の近所に住んでいたママによると、住んでいたマンションからも引っ越して、実家に戻ると言っていたという。うわさ話にすぎないけれど、少し前に家庭内でトラブルがあり、その後から「私はこんなに頑張っているのに」「うちの子はもっと特別扱いされていいはずなのに」などの発言が目立つようになったそう。
もし本当にそうだとしたら、自分やわが子を認めてほしい気持ちが、空回りしてしまったのだろうか。

