マッチングアプリにハマった夫のことを妻は信じ直せるのか|山脇由貴子

マッチングアプリにハマった夫のことを妻は信じ直せるのか|山脇由貴子

夫婦カウンセリングを訪れるカップルが急増しています。コロナ禍のステイホームやリモートワークの普及により、パートナーへの不満から目を逸らしにくくなってきたことも要因のひとつだと『夫婦はなぜ壊れるのか』の著者は言います。病気の妻にから揚げが食べたいと言ってしまう夫から、実家に尽くし過ぎる妻まで。夫も妻も、なぜみすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。その背景を本書から抜粋して紹介していきます。別居や離婚を考えながらも揺れている方はもちろん、家庭内が以前に比べてギスギスしていると悩んでいる方まで、関係改善のヒントが得られる1冊です。

(本文中の事例はすべて仮名であり、事実を元にしたフィクションです)

*   *   *

「夫がマッチングアプリで複数の女性と連絡を取り続けているのが分かって……」

美由紀さん(42歳)が言いました。なんだか夫の様子がおかしいと感じた美由紀さんが、夫のスマホを見たことで発覚したそうです。

「しかも、夫から女性へのメールがすごく性的な、いやらしい文面で。私もうショックで。夫のそんな面を見た事なかったので……」

とうなだれます。私は夫の勇一さん(44歳)に尋ねました。

「ここにおいでになる事に抵抗はなかったですか?」

勇一さんは顔を上げて、言いました。

「抵抗がなかった訳ではありません。でも、妻から、これからも一緒にやっていきたいなら、カウンセリングに来るのが条件だと言われて……」

きっとカウンセリングでも責められるだろうと思っていたはずです。それでも来たという事は、夫婦関係を続けていきたいという勇一さんの意志は固いようです。

私は続けました。

「それで、マッチングアプリで女性とやり取りしていたのは事実なんですか?」

勇一さんは妻の様子を見ながら、答えました。

「それは、事実です。本当に申し訳ないと思っています。ただ、やり取りしていただけで、浮気をした訳では……」

その言葉を遮るように、美由紀さんが言いました。

「そんなの、信じられる訳ないじゃない。あなたからホテルに誘ってるメールもあったんだから!」
「それはやり取りだけで……冗談というか、遊びというか」

浮気の有無を明らかにしても意味がない理由

事実をはっきりさせるのは難しそうだな、と私は思いました。浮気を否定する夫の中には嘘をついている人もいるし、本当に浮気をしていない人もいます。ですが、カウンセリングはその事実を明らかにする場ではなく、夫婦間に起こっている問題を解決する場です。美由紀さんには、事実を明らかにするのは難しいことを納得してもらうしかありません。ただ、それは追々のこと。ですので今度は私から切り出しました。

「一番の問題は、どうして勇一さんがそんな事をしてしまったのか、その原因を知って、今後繰り返さないようにする方法を見出すことですね」

美由紀さんは2度頷きました。

「夫婦関係は悪くない、というか良いほうだと思っていたので、私はどうして夫がこんな事をしたのか、それが知りたくて、ここに来たんです」

美由紀さんの希望もあり、まず勇一さんのカウンセリングを始めました。ですが、その前に夫婦関係について勇一さんに尋ねました。

「夫婦仲は美由紀さんの言う通り、良かったんですか?」

勇一さんは頷きます。

「仲は良い方だったと思います。周りからも『仲いいね』といつも言われていました。子どもに留守番させて2人でランチに行ったり、カフェに行ったりしていましたし」

子どもは高2の男の子、中2の女の子、小5の女の子の3人だそうです。

コロナをきっかけにアプリをスタート

「マッチングアプリを始めたきっかけはなんだったんですか?」

私はストレートに尋ねました。勇一さんは、考えながら答えました。

「一番は、コロナだったと思います。私は完全テレワークになり、子どもたちも休校になったんですけど、妻は半分出勤、半分テレワークでした。家事育児をやるのは私が主になって、それは仕方がないと思ってました。でも、とにかくやる事が多くて……。仕事をしない訳にもいかないし、リモート会議もあったので、手が回らなくて……」

そうはいっても、食事の準備だけはしなくてはならないので、朝、昼食まで用意して子どもたちに食べるように言っておく。でも放っておくとお菓子を食べて済ませたり、食べても食器を片付けていなかったりする。そんな子どもの世話と仕事で他の家事に手が回らなかったと言います。

「そうすると帰ってきた妻に怒られるんです。『なんで1日中家にいたのに洗濯してないの!』『なんでこんなに部屋が汚いの!』って。仕事がある事は妻も分かっているんですけど、出勤の日は妻も疲れて帰って来るので……」

今になって考えると、子どもたちも休校で気持ちが緩んで、以前ならやっていたお手伝いをしてくれず、だらしなくなっていたせいもある気がする、と言います。

「でも、何よりもストレスだったのは、誰とも話せない事でした。長男の受験も重なっていて、妻が在宅の日もピリピリしていて、1日中子どもたちに口うるさく怒鳴っているのも苦痛でした。でも、ストレス発散方法がなくて。仕事帰りにちょっと同僚と飲みに行くって事も出来ないし……妻がいない時間は子どもにあれしろ、これしろと言っているだけで1日が終わるんです」

専業主婦の妻の中にもいます。「家事と育児に追われて、1日誰とも話さずに終わり、私って何してるんだろうって思う時があります」と言う人が。勇一さんもそんな気持ちだったのでしょう。

「前みたいに、妻と出かけたりできれば違ったと思います。長男と長女は下の子の事を可愛がっているので、私たち2人がちょっと出かける時は面倒を見てくれていました。でもコロナで出かける事が出来ないので、妻と話す時間もなくて……なんとなく夫婦仲も悪くなった感じで……」

寂しかった、と勇一さんは言います。

「私は誰かと楽しくおしゃべりがしたかったんです。でも妻は在宅の日も子どもの世話で精一杯で、私と話す余裕もない様子で……。だからつい、マッチングアプリを始めてしまって……。本当に誰とも会ってはいないんです。それは妻も分かってると思います。ゲーム感覚だったんです」
(続く)

配信元: 幻冬舎plus

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