「セクハラ加害者になってしまいました。妻に知られずに解決したいのですが」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
正社員の相談者の男性は、勤務先のパート従業員女性へのセクハラを理由に会社から「訓戒」処分を受けました。
相談者は、被害者女性から「主人のモラハラが酷いからいい子いい子して下さい」と言われたことをきっかけに、「今日もかわいいね、と声をかける」「髪を触る、頭を撫でる」「肩に手を回す」といったことを5回程度行ったそうです。
このことを被害者の夫が知ることになり、会社に「訓戒程度の処分は軽すぎる」などと伝えているようです。
会社の上司は、相談者に対し、「相談者の妻を同伴して謝罪に行ってはどうか」と異例の提案をしているそうです。しかし、相談者としては、妻に知られることなく問題を収束させたいと望んでいます。
今後どのように対応すべきでしょうか。
●どのような行為がセクハラになるのか
まず相談者のしたことがセクハラにあたるのか検討します。
「セクハラ」は大きく「対価型」と「環境型」という2つに分けられます。
対価型とは、職場で性的な言動への対応により、労働者が不利益を受けるもので、たとえば2人きりで飲みに行こうと誘われ、断ったら降格させられるといったものです。
環境型とは、性的な言動により就業環境が害されるもので、たとえば不要なボディタッチを繰り返したり、性的な言葉を向けられたりするものです。
相談者の「今日もかわいいね」といった言葉に加え、「髪を触る、頭を撫でる、肩に手を回す」といった身体接触は、相手の意に反して行われれば「性的な言動」にあたり、環境型のセクハラの典型例といえます。
なお、相談者によると、被害者側から「いい子いい子して」という言葉があったのがきっかけとのことです。しかし、だからといって上の言動が許されることにはならないと考えられます。
なぜなら、被害者側の言葉は、「家で辛い思いをしているから、会社では優しく扱ってほしい」という程度の意味と捉えるのが自然であって、「今日もかわいいね」と言われたり、身体の各部に触れたりされることを望んでいるとも、許容するような意味とも考えにくいからです。
●相談者はどうすればいいか
前提として、妻を同伴して謝罪に行く法的な義務はありません。
したがって、相談者が妻の同伴を拒否しようと思えば、拒否はできますし、上司が無理に相談者の妻を同伴させた上での謝罪を強要すれば、それ自体が相談者に対するパワハラにあたる可能性すらあります。
ただ、だからといってこのまま放っておいても、今回のことを妻に知られることが絶対にないか、といわれると、リスクはあると考えられます。
たとえば、被害者が慰謝料請求の訴訟を起こした場合、訴状などの裁判書類は相談者の住所に送られてくる可能性があります(民事訴訟法第103条)。そうでなくても出廷などが必要になる可能性もあり、妻に知られる可能性は高くなります。
現段階では会社が対応窓口となっており、被害者側からの法的な動きはないそうですが、今後の状況によっては問題が大きくなる可能性はあります。

