●どの会社が割増賃金を支払う義務を負うのか、の検討はややこしい
なお、複数の会社で働いている場合に、どの会社が割増賃金を支払う義務を負うのかはなかなかややこしい問題です。
以下、ごく単純な例に絞って簡単に考え方を説明してみます。
たとえば、本業のA社で6時間働く契約を締結していた人が、副業として後から3時間働く契約をB社で締結した場合を考えてみます。
この契約があって、「契約通り1日9時間働いた」場合、1時間分の割増賃金を支払うのはB社となります。
これは当然に思われるかもしれませんが、次に本業のA社では4時間働く契約を締結していて、後から副業として3時間働く契約をB社で締結した場合を考えてみます。
この契約があって、「契約を超えて、その日はA社で5時間、B社で4時間の合計9時間働いた」場合、法定労働時間を1時間オーバーすることになりますね。
この場合には、 1)A社→B社の順に働いた場合はB社が1時間分の割増賃金を支払う義務がある
2)B社→A社の順に働いた場合はA社が1時間分の割増賃金を支払う義務がある
ことになります。
両者は混乱しやすいですが、考え方としては、以下のようになります。
最初の例では、契約上の労働時間だけで、既に8時間という法定労働時間をオーバーしているわけです。この場合、労働者が8時間を超えて労働しなければならなくなったのは、1日の労働時間をオーバーさせる契約を締結した会社の責任といえます。
分かりやすくいうならば、「A社だけとの契約ならば8時間をオーバーしないで済んだのに、B社とも契約したせいで8時間をオーバーすることになったのだから、オーバーしたのはB社のせいであり、B社が割増賃金を支払うべき」ということです。
したがって、実際働いた順番に関係なく、後で契約を締結した会社(B社)に、割増賃金を支払う義務が生じます。
後の例では、契約上はA社とB社で働く時間を合計しても、8時間という法定労働時間をオーバーしていません。この場合に、その日その労働者が9時間働かざるを得なくなったのは、最後に働かせていた会社が働かせすぎたから、と考えるわけです。
つまり、8時間を超過した労働をさせた「後の会社」が、割増賃金を支払う義務が生じます。
ただし、この労働時間の通算については、実務上、会社側が他社での労働時間を正確に把握することが難しいという課題があります。

●会社側の「労働時間把握義務」と労働者側の「申告義務」
会社は、労働者が働き過ぎて健康を害してしまわないように守る義務を負っており(安全配慮義務)、労働者からの申告などによって他の勤め先での労働時間を適切に把握し、健康状態に問題があれば適切な対応をする義務を負っています。
この義務を会社が果たすため、労働者側も、会社から申告を求められた際は、副業先での労働時間について正直かつ正確に申告することが求められます。

