鏡餅
松飾りとともに大事なのが、鏡餅(かがみもち)です。日本人の主食である米をぎゅっと凝縮して作られるお餅は、霊力のかたまりと言えます。神社の御神鏡のように円形をした餅という意味で「鏡餅」と呼ばれ、円は神様の霊力や万物の調和を表します。
鏡餅、すなわち重ねた円形のお餅は、神様がお家にいるあいだ、そこでお休みになる「依り代(よりしろ)」であると同時に、神様へのお供えでもあります。
ひらたく言えば、神様のための「お布団」で「食べ物」である、つまり、神様のお宿みたいな感じです。
関西へ移り住んだばかりのころ、お正月のお雑煮(西日本では丸餅が主流です)のお餅がすこし大きかったので、食べやすいように半分に切って入れました。すると、
「え。なにしてんの? 半円になってしもてるやん!」
と、えらく驚かれたことがあります。私はインド生まれの関東育ちで、関東のお雑煮は四角いお餅が主流だったので、わからず半円にしてしまいましたが、今思えば、丸餅は、神様の霊力や万物の調和を表すのですから、半円では意味がないのです。
では関東のお雑煮の餅はなぜ四角いのかというと、江戸のころに、江戸城下で人口が急増したため、お餅を大量生産できる方法として、餅を一気にのしてから切り分ける「角餅」が考案されたのだそうです。坂東(ばんどう)武士の勢力が強かった東日本では、「敵をのす」の縁起かつぎが好まれて、のし餅を四角く切って焼いたお雑煮を食べた、それがそのまま残っていると言います。
へえへえ、そうなんだ、というリアクションが聞こえてきたところで、鏡餅のお話にもどりますね。
神様用の鏡餅の飾り方は、地方によっても、家庭によってもさまざまです。
一般的なのは、三方に四方紅(四方を赤く染めた紙)、あるいは半紙を敷いて、裏白(葉っぱの裏が白い植物の枝葉)を載せ、お餅を重ねて、その上に橙(だいだい)を飾ります。橙とお餅の間に串柿(くしがき)を載せることもあります。お餅を2段に重ねるのは、日と月を表す、福と徳を重ねる、など諸説があります。また、3段にする地域もあります。
鏡餅は、小さな三方、またはお皿に鏡餅を載せて、神棚、「床の間(どこのま)」、台所や玄関などに飾ります。
(イラスト:宮下 和)
(つづく)

