些細でしょうもない喧嘩があまりにリアル
ふたりが出会ってから結婚し、やがて離婚するまでの15年間の軌跡を淡々と繊細に描いている本作。日々の暮らしの中でつい雑に発してしまった無神経な言葉や、疲弊からくる思いやりのなさ、そこから勃発する些細でしょうもない喧嘩があまりにリアルでいたたまれない。仕事を愛し、声の大きい私としては、サチにシンパシーを覚え、卑屈になっていくタモツにどうもやきもきしてしまう。けど、それはきっと精神的な強さは元より、私が金銭的に自立しているからこそ。きっと私は何度となくサチのように誰かのプライドを傷つけてきたことだろう。男女差というより、収入差や立場の違いというものがこの不均衡を生むのだと身につまされた。
どうすればよかったのだろう。考えたって仕方のないifがいくつも湧いては、かえってその不可逆性にぐっと心が傷つく。人が人と生きていくことってなんて難しいんだろう。幸せとは、家族とはなんぞや、と思わず考えてこんでしまった。
●『佐藤さんと佐藤さん』
配給/ポニーキャニオン 全国ロードショー中 ©2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。

