災害時の「お金と法律」(第1回 新しい防災「知識の備え」を~災害復興法学の誕生)

災害時の「お金と法律」(第1回 新しい防災「知識の備え」を~災害復興法学の誕生)

大規模災害 被災者の悲痛な声とは?

写真:PIXTA

災害大国といわれる日本。地震、津波、豪雨、洪水、土砂崩れ、竜巻、噴火等の自然災害は、常に私たちの暮らしと隣合わせです。南海トラフ地震や首都直下地震等の巨大災害が起きた時には、これまでの日常が一変する大きな被害は避けられません。

では、そもそも自然災害によって被災するとは一体どういうことなのでしょうか。自らの命や健康が危険にさらされるかもしれません。大切な人を失うかもしれません。建物や道路の破壊、ライフラインの断絶、医療や福祉サービスの休止なども起きます。これらは誰もが想像できることでしょう。

しかし、被災の姿は目に見える人的・物的被害にとどまりません。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震、2019年の令和元年東日本台風、翌年の令和2年7月熊本豪雨、そして2024年能登半島地震と奥能登豪雨…。ここ30年余りでも上げればきりがない大規模災害の被災地では、災害直後から次のような被災者の声が聞こえてきます。

―――大地震後の津波で建てたばかりの自宅が流出してしまった。夫婦で営んでいた個人商店も損壊し、商店街や住宅街も壊滅状態となってしまった。避難所になっている公民館に身を寄せているが、いったいこれからどうなってしまうのか。何から手を付けてよいのかわからない。夫はまだ安否が分かっていない。住宅ローンは夫婦で連帯して二千万円以上残っている。個人事業についても同様に一千万以上の借入金がある。貯蓄は決して多くなく、間もなく破綻することは目に見えている。2人の子供たちはこれから大学生と高校生だ。学費や様々な費用がかかるが、到底用意できそうにない―――。

写真:PIXTA

目に見えない困難が次々と襲いかかる・・・ローンや生活費、仕事の不安

災害直後から、弁護士らが幾度となく聴いている被災者の声の典型例です。目に見える被害にとどまらず、お金のこと、支払いのこと、仕事のこと、様々な費用のこと、契約のこと、あるいは近隣との争いごとなど目に見えない被害、いわば「くらし」に関する絶望と困難を同時に引き起こすのです。防災教育は、当然ながら災害後に命が助かることを第一目標に実施されます。しかし、災害直後に被災者に襲い掛かる、くらしへの不安や焦燥感にも目を向けなければならないはずです。絶望の中にあっても、少しでも前を向いて、生活再建のための一歩を踏み出してほしい。しかし、これほどの被害を受けてしまった方にどんな希望を届けられるというのでしょうか。

配信元: 防災ニッポン