●「安倍元首相」が被害者であることで、刑は重くなるのか
逆に、「安倍元首相」が被害者だから刑が重くなるとか、重くすべきである、という方もいます。
しかし、「殺人罪」は、人の生命に対する犯罪であり、人の生命は平等ですから、人の社会的地位や身分などの属性を犯情として考慮してはならないのが大原則です。
もちろん、被害者が幼児などの弱者だった場合に、「弱い者への攻撃」という点で生命軽視の姿勢がより強いとして、より重く評価されるという考え方はありえます。
また、選挙活動中の政治家への攻撃であることや、有名な政治家を殺害することで世間の注目を集める目的が含まれていたとすると、これは民主主義の破壊であり、より重く評価すべきだという議論はあり得るでしょう。
ただし、今回の事件は、被告人としては政治的なテロリズムが主な目的というわけではなく、「安倍元首相は教団と深いつながりがある」と考え、個人的な恨みに基づいて犯行に及んだもののようです。そこで、被害者が安倍元首相であったことで、通常の殺人罪の量刑よりも重く評価すべきではないという議論も考えられます。
●まとめると
本件では、情状面をどう考慮して刑の重さを決めるかが大きな問題となっています。
そして、山上被告人のこれまでの人生などが、情状の中でも「動機」につながる重要な争点であることから、この点の審理が丁寧に行われるのは刑事裁判としては当然といえます。
被害者が安倍元首相であったことは、それ自体から直ちに罪を重くすべきという事情にはならないのが原則です。
しかし、選挙活動中の事件であることなどから、重く評価すべきなのか、そうでないのかという議論はありうるところであり、裁判で慎重に審理がされるものと考えられます。
(参考文献) 「刑事弁護の基礎知識〔第2版〕」2018年2月、有斐閣(岡慎一、神山啓史)
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

