急性大動脈解離の検査法
大動脈解離の診断には、迅速かつ正確な画像診断が欠かせません。ここでは代表的な3つの検査についてご紹介します。
胸部レントゲン
簡便に行える初期検査です。大動脈の拡大や縦隔(左右の肺の間にある部分)の広がりなどが見られることがありますが、異常所見がみられないことも少なくありません。
検査自体は短時間で終わり、痛みもなく被ばく量も少ないため、多くの医療機関で一般的に行われています。しかし確定診断には他の画像検査が必要です。
救急外来で採血と並んで最初に行うことが多い検査です。しかしこれだけでは診断できないため、多くの場合は追加検査を行います。
心臓超音波検査(心エコー)
超音波で心臓や大動脈の状態を観察します。大動脈解離により心臓の外側に血液がたまっていないか(心タンポナーデ)、大動脈の付け根が広がっていないか、上行大動脈が裂けていないかなどを調べます。体に負担が少なく、移動が難しい場合でもベッドサイドで実施できる非常に有用な検査です。
異常があれば即入院して治療を受けます。
CT・MRI検査
造影剤を使用したCTは、大動脈解離の確定診断に欠かせない検査です。解離の範囲や偽腔の広がり、臓器虚血の有無を詳しく確認できます。
造影剤アレルギーがある、妊娠中の方など、造影CTが施行できない場合はMRIを使用することもあります。しかし、検査時間が長くかかるため、全身状態の不安定な急性期には不向きです。 大動脈解離の診断がつければ入院です。治療内容によっては数週間の入院が必要です。
急性大動脈解離の治療法
大動脈解離の治療は、解離の型(Stanford A/B)と病態、合併症の有無によって異なります。 基本的には、「A型」は緊急手術の対象となることが多く、「B型」や偽腔が閉塞したタイプでは内科的治療が選択されることがあります。
人工血管置換術
上行大動脈に解離が及ぶStanford A型では、心臓の周囲の出血が心臓を圧迫する心タンポナーデが起こります。また、血管の解離が、上行大動脈の側にある大動脈弁に障害を与えたり(大動脈弁逆流)、冠動脈を閉鎖(心筋梗塞)したりすることもみられます。こうした理由から、命を救えないケースが多くあります。そのため、多くの患者さんは緊急手術の対象となります。
「人工血管置換術」は、解離した大動脈の部分を切除し、人工血管で置き換える方法です。置き換える部位に応じて、「上行置換術」「弓部置換術」「下行置換術」などと呼ばれます。
手術中には、体温を下げて全身の血液循環を一時的に止める「循環停止」と呼ばれる操作を行います。これは臓器を守りつつ安全に手術を行うための重要な手技ですが、体への負担はどうしても大きくなります。 術前の状態や術後の合併症、リハビリの進み具合によって変わりますが、入院期間は2〜4週間ほどです。
ステントグラフト内挿術
カテーテルと呼ばれる細い管を足の付け根や腕の血管から挿入し、「ステントグラフト」(ステントといわれるバネ状の金属を取り付けた人工血管)を大動脈の内側に留置する治療法です。主にStanford B型で実施する機会が多いです。
この方法は胸やお腹を大きく切開する必要がなく、人工血管置換に比べて体の負担も軽く、術後の回復が早いのが特徴です。特に高齢の方や他の病気があって開胸手術が難しい方に適しています。ただし、血管の形や状態によっては適応できない場合もあり、その場合は人工血管置換術と組み合わせた「ハイブリッド手術」を行うこともあります。 術前後の状態によって入院期間は大きくかわります。
内科的治療(保存療法)
Stanford B型大動脈解離で、破裂や臓器への血流障害がない場合には、痛みのコントロールと厳格な血圧や脈拍の管理を行います。これにより大動脈への負担を減らし、症状の悪化や解離の進行を防ぎます。しかし、血流の低下による腹痛や足の痛みなどの症状が見られた場合は、緊急手術が必要になることもあります。
内科的治療で急性期を乗り越えることができるのであれば、入院期間は2週間ほどです。

