母としての再出発
怖くて震えが止まりませんでしたが、電卓が示す数字の前では、迷う余地はありません。とにかく今すぐ、働かなくては。その日の午後、私は佳文を抱っこひもで胸に固定し、市役所へ向かいました。
「認可外なら、すぐ預けられる可能性があります」
そう言われ、紹介された無認可保育園にその足で電話をしました。受話器越しの園長先生は、思いがけず優しい声で言いました。
「お母さん、大変でしたね。お子さん、明日からでも大丈夫です」
その言葉に、胸がじわっと熱くなりました。泣きそうになるのを必死にこらえながら、何度も「ありがとうございます」と頭を下げました。翌日、佳文を園に預けたあと、私はハローワークへ向かい、何社も応募しました。携帯の電池が切れそうになるまで歩き、メモを取り、面接を受けました。
不安でつぶれそうになりながらも、“動き続けるしかない”。その思いだけで身体を前に運び続けました。
そして3日後、古い倉庫会社の事務補助に、採用が決まりました。そして翌週の月曜日から、佳文を保育園に預けて働き始めたのです。私の、新しい生活の始まりでした―――。
あとがき:絶望の淵で、それでも立ち上がれる理由
佳奈さんが味わったのは、夫の逮捕だけではなく、義実家からの断絶と生活基盤の喪失でした。それでも彼女は立ち止まらず、幼い息子を抱えながら前に進む選択をします。支えてくれる人がいない状況で、それでも行動を続けた佳奈さんの姿には、追い詰められたときの人の強さが静かに映し出されています。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: 光永絵里
(配信元: ママリ)

