橋本病による甲状腺機能低下は、全身のさまざまな臓器に影響を及ぼします。特に冷え性や便秘などの身体症状は日常生活に大きな支障をきたすことがあります。甲状腺ホルモンは体温調節や消化機能の維持に重要な役割を担っているため、その分泌不足により多様な症状が現れます。これらの症状を正しく理解することで、適切な対処法を見つけることができます。

監修医師:
墨屋 貴大(医師)
国際医療福祉大学病院にて2023年4月から2025年3月まで初期臨床研修を修了し、幅広い診療科における臨床経験を積んできました。
その後、2025年7月より東京大学大学院 医学系研究科 免疫学教室(高柳研究室)に所属し、免疫学分野の基礎研究に従事しています。臨床で得た視点をもとに、免疫の仕組みと疾患との関わりを解明し、再生医療や先進的治療法の発展につなげることを目指しています。
橋本病の身体症状の詳細
橋本病(慢性甲状腺炎)は、自己免疫反応により甲状腺機能が低下しやすく、その結果として甲状腺ホルモンの分泌不足(甲状腺機能低下症)を引き起こします。甲状腺ホルモンは全身の代謝や臓器機能の維持に重要な役割を担っているため、その不足により多様な全身症状が現れます。
冷え性と体温調節の異常
患者さんの多くが経験する症状の一つに、著しい冷え性があります。甲状腺ホルモンは体温調節に重要な役割を果たしているため、その分泌が低下すると体温を維持することが困難になります。「夏でも手足が冷たい」「厚着をしても暖まらない」「布団に入っても眠れないほど寒い」といった症状が出ることがあります。
この冷え性は、末梢血管の血流低下や心拍数の減少と密接に関係しています。心臓のポンプ機能が低下することで、手足などの末端部分への血液供給が不十分になり、慢性的な冷えを感じるようになります。また、筋肉での熱産生も低下するため、身体全体の温度が下がりやすくなります。
冷え性の改善には、甲状腺ホルモン補充療法が効果的です。しかし、治療開始から症状改善まで時間がかかる場合があるため、日常生活では保温に注意し、適度な運動で血行を促進することが大切です。温かい飲み物を摂取し、入浴時間を長めにとるなどの工夫も症状緩和に役立ちます。
便秘と消化器症状
橋本病では、消化器系にもさまざまな影響が現れます。一般的な症状は便秘で、患者さんの約70%が経験すると報告されています。甲状腺ホルモンの不足により腸管の蠕動運動が低下し、食物の通過時間が長くなることが原因です。
便秘は単に排便回数が減るだけでなく、腹部膨満感や腹痛、食欲不振などの症状を伴うことがあります。長期間続く便秘は腸内環境を悪化させ、有害物質の蓄積や栄養吸収の低下を引き起こす可能性があります。また、便秘により腹圧が上昇し、痔や憩室症のリスクも高まります。
消化器症状の改善には、甲状腺ホルモン補充療法とともに食事療法が重要です。食物繊維を多く含む野菜や果物、全粒穀物を積極的に摂取し、十分な水分補給を心がけることが必要です。また、適度な運動は腸管の蠕動運動を促進するため、散歩やストレッチなどの軽い運動を日常的に取り入れることをおすすめします。
まとめ
橋本病の身体症状は甲状腺ホルモン補充療法により改善が期待できますが、症状の回復には時間がかかる場合があります。冷え性や便秘などの症状に対しては、治療と並行して日常生活での工夫も重要です。保温対策や食物繊維の摂取、適度な運動などの生活習慣の改善により、症状の緩和を図ることができます。定期的な医師との相談も欠かせません。
参考文献
甲状腺の病気と検査(国立がん研究センター)
甲状腺機能低下症(厚生労働省)
重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省)
甲状腺ホルモン不応症(指定難病80)(難病情報センター)

