橋本病は身体的な症状だけでなく、精神面にも深刻な影響を与えることがあります。甲状腺ホルモンが脳の代謝や神経伝達に関与しているため、その不足により抑うつ症状や記憶力低下、集中力の減退などが現れます。これらの精神的症状は患者さんの社会生活や人間関係に大きな支障をきたすため、身体症状と同様に重要な治療対象となります。

監修医師:
墨屋 貴大(医師)
国際医療福祉大学病院にて2023年4月から2025年3月まで初期臨床研修を修了し、幅広い診療科における臨床経験を積んできました。
その後、2025年7月より東京大学大学院 医学系研究科 免疫学教室(高柳研究室)に所属し、免疫学分野の基礎研究に従事しています。臨床で得た視点をもとに、免疫の仕組みと疾患との関わりを解明し、再生医療や先進的治療法の発展につなげることを目指しています。
橋本病の精神的症状と生活への影響
橋本病は身体的な症状だけでなく、精神面にも影響を及ぼすことがあります。甲状腺ホルモンは脳の代謝や神経伝達の働きに関与しているため、その不足によって抑うつ気分、不安感、意欲低下、集中力の低下など、さまざまな精神症状が出現することがあります。
抑うつ症状と気分の変化
橋本病患者さんの約40〜60%が抑うつ症状を経験すると報告されています。これは甲状腺ホルモンが脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンの合成に関与しているためです。患者さんは「気分が沈みがち」「何をしても楽しくない」といった症状を訴えることがあります。
この抑うつ症状は、しばしば単なる精神的なストレスやうつ病と誤診されることがあります。しかし、橋本病による抑うつ症状は甲状腺ホルモンの補充により改善する可能性が高いため、適切な診断が重要です。症状が続く場合は、甲状腺機能検査を含む総合的な検査を受けることをおすすめします。
治療においては、甲状腺ホルモン補充療法と並行して、必要に応じて抗うつ薬の使用も検討されます。また、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法も有効な場合があります。
記憶力と集中力の低下
認知機能の低下も重要な症状の一つです。患者さんは「物忘れがひどくなった」「集中力が続かない」「判断力が鈍った」といった症状を経験します。これらの症状は日常生活や仕事に大きな支障をきたすことがあります。
甲状腺ホルモンは、脳の代謝や神経細胞の機能維持に重要な役割を果たしています。ホルモン不足により脳血流が減少し、神経伝達が滞ることで認知機能が低下します。特に記憶の統合や情報処理速度に影響が現れやすく、複雑な作業や新しい情報の学習が困難になることがあります。
認知機能の改善には適切な甲状腺ホルモン補充が効果的です。しかし、回復には時間がかかるため、日常生活では記憶をサポートするツールの活用や、複雑な作業を細分化して行うなどの工夫が必要です。また、十分な睡眠と規則正しい生活リズムも認知機能の改善に重要です。
まとめ
橋本病による精神的症状は適切な甲状腺ホルモン補充療法により改善が期待できます。しかし、回復には時間がかかるため、必要に応じてカウンセリングや心理療法との併用も検討されます。症状が続く場合は単なるうつ病と誤診される可能性もあるため、甲状腺機能検査を含む総合的な検査を受けることが重要です。周囲の理解とサポートも回復には欠かせません。
参考文献
甲状腺の病気と検査(国立がん研究センター)
甲状腺機能低下症(厚生労働省)
重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省)
甲状腺ホルモン不応症(指定難病80)(難病情報センター)

