誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
見渡せば恋や愛は、完璧を求めすぎるあまりに形を決めかねていて
心の境界線を曖昧に、気配だけで気分を構築してゆく
薄い霧のような君はユラユラと漂いながら、触れたものの輪郭を適当に壊してしまう
主張をしないノイズは、聴覚の深部へと沈んで、僕の躊躇()いを静かに震わせた
スクランブル交差点の真ん中は、きっと行き交う人々の時間は均一ではない
人影は粒、可能性の粒は濁流に、流れはまたどこかで別の光に変換されて
色彩の解体が、日常の呼吸として繰り返されて、その渦の中で君と僕は出会った
ガラスに映る君と僕は、実体よりも光の比率が高く、姿勢よりも気配が先に空間を支配する
そんな曖昧な存在を否定せず、むしろ薄い膜のように包み込む都市の常識は、身体の中心ではなく、もう少し外側の言語にならない領域に音として触れてくるとして
街の輪郭はアメーバのようで、君と僕はあの日に方向を失ったけれど、同時に妙な安心感も覚えた
歩道橋の上から見下ろす景色は、地図ではなく脈、光は血流のように脈打ち、街は巨大な体温のように揺れていて
輪郭は薄いままで、意味はあとから追いついて
抽象だけが君と僕の意識の片隅に、街の思惑を映していた

星野源『生命体』(2023年、SPEEDSTAR RECORDS)

