ワンオペ育児に追われる主婦・理々子は、夫サトルの度重なる「接待」と、ワイシャツから見つけた3万5千円のラウンジのレシートに違和感を覚える。姉の「動かぬ証拠を掴め」という言葉を胸に、理々子は幸せな家庭を守るため、冷静に逆襲の準備を始めて―――。
慌ただしくも幸せな日々
私は理々子、31歳。夫のサトルは33歳。私たちは結婚8年目になる、ごく普通の家族です。長女の真澄が5歳、長男の竜司が3歳、そして次女の茉奈がまだ1歳。ワンオペ育児なんて言葉じゃ足りないくらい、毎日、朝から晩まで子どもたちの世話に追われる日々を送っています。
賑やかで、時にカオスで、でも、どこを切り取っても「幸せ」と呼べる光景だったはず。
私はもともと、どちらかというと真面目で地味なタイプ。子育てに専念してからは、自分のことは二の次で、いつも家事と育児を完璧にこなそうと頑張ってきました。サトルは、そんな私を支えてくれる、頼りになる夫だったと思います。少なくとも、今までは。
夫のラウンジ通いが判明
「今日も飯いらない。急な接待が入った」
最近、サトルからの連絡はいつもこんな調子。最初は本当に仕事が忙しいのだと信じていました。彼は商社勤めで、昇進を目指して頑張っているんだ、って。でも、夜が遅くなるって言ったって、せいぜい週に2回か3回が限度でした。それがこの半年、それが週に4回、5回と増えていたのです。家にいる日は疲れた顔をして、子どもたちと遊ぶ時間も減っていました。
ある日、洗濯物を畳んでいるとき、サトルのワイシャツのポケットから、見慣れないレシートが出てきました。日付は先週の水曜日。その日、夫は「接待で遅くなる」とメッセージを送ってきていました。
《ラウンジ GUEST 1名様 1時間 ¥35,000》
あまりの高額に指が震えます。3万5千円。これが接待?しかも、1名様って、絶対違いますよね。
この時点で、どういうことなのか問い詰めることもできたでしょう。でも、怖くてできませんでした。私の中で築き上げてきた「幸せな家庭」という砂のお城が、ガラガラと崩れる音を聞きたくなかったのです。
それから、私の日常は「疑心暗鬼」に変わってしまいました。疲れた顔で帰宅し、シャワーを浴びているサトルのスマホを、私は震える手で開きます。パスコードは彼の誕生日。よほどバレていない自信があるのか。変更されていませんでした。
パット見たところ、メッセージアプリには、仕事のグループと、両親や私とのやり取りしかありません。怪しいメッセージはすべて削除されているのか、それとも別のツールを使っているのか―――。
唯一、異様に目についたのは、電話の発着信履歴。毎日、決まった時間に3回ほど、特定の番号に電話をかけています。決まってサトルが遅くなる日で、その連絡先に連絡した前後に、シティーホテルや高級ディナーの店に連絡をしているので、女であることは間違いなさそうです。
その電話番号は、もちろん、連絡先には登録されていない番号。さらに検索履歴は「夜景 デート」とか「女性 プレゼント」とかいかにもな履歴が山ほど。これは絶対、なにかやっていると確認しました。

