
波瑠と川栄李奈がW主演を務める金曜ドラマ「フェイクマミー」(毎週金曜夜10:00-10:54、TBS系)が、12月12日(金)にいよいよ最終回を迎える。放送に先がけて、監督のジョン ウンヒ氏、撮影監督の片村文人氏、照明技師の太田宏幸氏による鼎談を実施。演出・撮影・照明が一体となって芝居を支える本作の撮影スタイルの裏側について語ってくれた。
■禁断の“母親なりすまし”から始まるファミリークライム・エンターテインメント
本作は、次世代を担う脚本家の発掘・育成を目的としたプロジェクト「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」の第1回で大賞を受賞した、園村三の同名作品をドラマ化。
正反対の人生を歩んできた二人の女性が、子供の未来のために“母親のなりすまし”という禁断の“フェイクマミー(ニセママ)”契約を結ぶことに。母親業のアウトソーシングから始まる、うそとトラブルだらけのファミリークライム・エンターテインメントだ。
大手企業で順調にキャリアを築いていたものの訳あって退職し、転職活動に苦戦していた花村薫(波瑠)は、ベンチャー企業「RAINBOWLAB」の面接を受けた際、社長を務める元ヤンのシングルマザー・日高茉海恵(川栄)と出会う。
薫は茉海恵からの依頼で、名門私立・柳和学園小学校への受験を控えた茉海恵の娘・いろは(池村碧彩)の家庭教師を務めることに。そんなある日、茉海恵から「お受験の日、私の代わりに“ママ”として面接を受けてほしい」と持ち掛けられる。
もしバレてしまったら刑罰に問われる可能性があり、入学後のことも考えて断る薫だったが、やがて二人は、禁断の“フェイクマミー(ニセママ)”契約を交わすことに。そんな母娘の前にはさまざまな問題が立ちはだかっていく。
■波瑠&川栄の演技に「カットをかけるのを忘れるくらい見入ってしまった」
「フェイクマミー」の撮影現場は、キャストの持つ繊細さと柔らかい熱が静かに広がっている。主演の波瑠と川栄李奈について、ジョン監督は「本読み(出演者が顔をそろえて脚本を読み合わせること)で見た瞬間、もう役が出来上がっていた」と振り返る。
2人は第1話のカフェで薫と茉海恵が対峙するシーンがクランクイン。茉海恵の一人娘・いろは(池村碧彩)の受験に向けて家庭教師をお願いする場面で、「2人のテンポの速い会話と絶妙な演技の間にカットをかけるのを忘れてしまうぐらい楽しんで見入ってしまった」とジョン監督は明かす。
また、薫と茉海恵の関係性が深まっていくシーンでは、眼差しだけで通じ合う2人の演技を見て、「何回もモニター越しでうるっとくる瞬間がありました。そこにいろはが加わり、3人が徐々に家族の形になっていく姿に感無量な日々でした」と心を動かされた瞬間を明かしてくれた。波瑠と川栄のキャラクターが生む説得力は撮影現場の空気さえ変え、スタッフの温度をも引き上げていった。

一方、黒木竜馬役の向井康二(Snow Man)については、ジョン監督ならではのこだわりがあった。「バラエティー番組でのイメージが強いからこそ、視聴者に“違う姿”を見せたかった」と語る。見た目だけの“かっこよさ”ではなく、“人として魅力のあるかっこよさ”を追求するため、向井とジョン監督は何度も話し合い、多くのテイクを重ねた。
また向井の“人の微妙な感情の変化を捉える”感性について「とても素敵。それを演技に反映してくる人だなと思いました。向井さんの違う一面を視聴者の皆さんに見てもらえることができてうれしいです」と語る。「最近の竜馬の演技は本当にすごい」とジョン監督は太鼓判を押す。
また、佐々木智也役の中村蒼の“お茶目な方向性”が後半にかけてじわじわと出てきたことについてもジョン監督は目を細める。「あの変化がまたすごくいいんです」。
智也というキャラクターは、学校側の人だからこそとても難しい役だ。ジョン監督は「繊細なニュアンスが大事な役でもあります」と明かし、撮影現場でつたない日本語と身振り手振りを交えてお願いも。そのお願いにすぐ応える中村の姿に「毎テイク『ありがとうございます!!』という気分でした」と明かし、キャスト全員の変化と成長を見守る現場の温かさが伝わってくる。

■“俳優・津田篤宏”の奮闘を制作陣が絶賛
そんな俳優陣の中で、ジョン監督にとって津田篤宏(ダイアン)との再タッグは大きな心強さになった。
「フェイクマミー」の撮影に入る前、ジョン監督は「求人ボックス」のCMで津田と一度共演済み。今回のドラマ出演にあたり、「“ゴイゴイスー”は禁止でお願いしますね(笑)」と軽く釘を刺したことを明かす。
「CMの時から演技が本当にお上手だと思っていたので、不安はありませんでした。ただ、ご本人から『せりふが全然覚えられないから、カットを割ってくれ』と言われていたんですが、いざ通しで撮ってみたら全部覚えてきてくれていて。あれはすごかったですね」。
CMでの経験が“距離感の近さ”に直結したわけではないが、「どこまでできる方なのか」をつかめていたことで、迷いは一切なかったという。「津田さんは本当に優しい方。今回も安心して任せられました」と、信頼を込めて語った。

■常に議論しながらシーンを作り込んでいった“本橋家”
撮影現場の空気をさらににぎやかにしているのが、“本橋家”の面々だ。ジョン監督は「本橋家、すごいことになっています。とても楽しいです」と笑いながら語る。
本橋慎吾役の笠松将は、いろいろなパターンの演技を提案してくれるという。「キャラクターについて、どう見えるべきか、見せるべきかを常に議論しながら、慎吾のシーンを作っていきました」と明かす。段取りの時にジョン監督の予想を超える慎吾の姿を見せた笠松。「先に見られることが何よりも楽しかったし、その計算がとても素晴らしかった」と、撮影現場で刺激を受けた。
本橋さゆり役の田中みな実に関しても、田中がクランクインしたシーンで、キャラクターがすでに出来上がっていたという。「細部まで設定を肉付けしていたので、本当にすごいなと思いました。田中さんの演技の幅は、もっとあるんだろうなと感じました」。
さらに、「段取りの後に、話し合いながら出てきた言葉に柔軟に対応してもらえたり、シーン内での議論も積極的にしてくれる。その姿勢がとても心強かった」と笑顔を見せる。
俳優が自由に役を広げ、監督がそれを正面から受け止めて返す。そのキャッチボールが、撮影現場に“親しさと熱”を生み出していた。

■作品の奥行きを形作った“芝居優先”の姿勢
「フェイクマミー」現場の強みは、徹底された“芝居優先”の姿勢だ。ジョン監督は「俳優が考えてきたものを生かしたい」と語り、まずは俳優の動きをじっと見つめ、その呼吸を受け取りながら演出を組み立てていく。
撮影監督の片村氏も「芝居を長く見せたい」と語り、カメラを極力動かさず“演技を丸ごと味わえる”画作りを重視。照明技師の太田氏は「演出にかけられる時間をどれだけ伸ばせるか」を常に考え、俳優が集中しやすい環境作りに徹している。
3人のシンクロは驚くほどだ。片村が「ワイドで撮りたい」と心の中で思った瞬間、ジョン監督のトランシーバーから同じ指示が飛んでくる──そんなことが日常茶飯事。撮影後の帰り道では太田氏とジョン監督が “ミニ振り返り会”を開くなど、作品について語り合う時間は尽きない。
専門も立場も違う3人が、同じ方向――“俳優の魅力が最も際立つ画”――に向けて動き続ける。その静かで強い熱量こそが、「フェイクマミー」という作品の奥行きを形作っている。

