●貞操権侵害訴訟と不倫慰謝料訴訟は表裏一体…被告の妻が原告を訴える可能性
──既婚者との性交渉は不倫にあたります。
相手の配偶者から慰謝料を請求されるリスクがあります。相手が既婚者だと知らなくても、過失(不注意)で既婚に気づかなかった場合は、賠償責任は免れないと判断した裁判例もあり、責任追及を躊躇させる要因にもなります。
婚姻はあくまで契約関係であり、ある人が既婚者かどうか第三者には確かめるのも困難ですから、過失でも不法行為が成立するというのは、民法の理論として誤りだと考えますが、そういう現状があります。
実際、今回のケースでも、被告の妻は、夫と同じ弁護士に原告女性と交渉する代理人として依頼しています。被告側の主張によると、将来的に原告に損害賠償請求をする可能性があるとのことです。
ただし今回は、原告が何度も婚姻歴や子どもの有無を確認し、既婚者と交際しないことや真面目な交際しか希望していないことを表明しています。被告は婚姻歴や子どもの存在を否定しており、そのやり取りの記録は相当残されていたようです。
●判決で不法行為が認められた「一番の決め手」
──不法行為が認められた決め手は?
「婚姻を見据えた真剣な交際しか希望していないことを知りつつ、婚姻する意思がないのに交際を継続して性交渉を持った」というだけで、性的自己決定権侵害の不法行為が認められるかと言えば、微妙なものがあります。
そうしたケースで、「積極的に虚言を弄して性的関係を継続したわけではない」などの理由で不法行為成立が否定された事例もあります。
今回のケースでは、事実経過からも、被告は、自己の身上(既婚者、子持ち、婚姻歴等)は嘘を述べていますが、真剣な交際かどうか、妊娠した場合に責任を取るかどうかといったことについて、積極的に肯定する嘘をついていたとは認められていません(否定しないという意味で暗黙の肯定とは言えますが)。
そうなると、今回、不法行為が認められた一番の決め手は、被告が、自己が独身であると積極的な嘘をついていたところにありそうです。

