●交際4カ月でありながら、賠償額はそれなりになった
──賠償額(約151万円)の内訳を教えてください。
今回認められた賠償額の内訳は以下のとおりです。
(1)慰謝料 110万円
(2)探偵費用 約26万円
(3)治療費 約1万円
(4)弁護士費用 約14万円
(1)の慰謝料については、一般に、慰謝料額は裁判官の感覚で、ある程度左右される面があります。
交通事故の損害賠償請求のように極めて類型化された事件だと、かなり定型的に算出されて、不倫の慰謝料請求もある程度相場があります。
一方、性的自己決定権侵害事案は、そこまで事件数が多くないこともあり、そのような相場があるとまでは言い難いように思われます。
インターネット上の解説でも「相場は50〜200万円」とかいろいろな解説が見受けられます。
過去の判例では、10万円にとどまった事例から、400万円になった事例もあります。
・東京地裁2022年3月4日判決(交際期間約2カ月で10万円)
・東京地裁2023年3月30日判決(交際期間約3週間で20万円)
・東京地裁2022年8月25日判決(交際期間約3年3カ月で、女性の年齢に照らして子を産む機会が奪われたことを考慮して400万円)
交際期間が長ければ高めになる傾向があると一応は言えそうですが、交際期間約4年9カ月と長期でありながら慰謝料90万円にとどまった例もあります(東京地裁2022年5月13日判決)。
どちらかといえば低めに留まりがちと言えそうです。交際期間約4カ月で認められた慰謝料110万円は、絶対値としては不十分に感じられますが、これまでの事例を踏まえれば、それなりの額とは言えるでしょう。
判決の認定事実でも、被告の「身勝手さ」がいろいろな形で表れており、そうしたことが影響したと思われます。
被告は「原告に不正出血がある中、性交渉を複数回行った」り、全体として、旺盛な性欲を満たすために、原告の体調にも配慮せずに関係を続けていたという印象も受けます。
●探偵費用まで認められたのは珍しい
──他の内訳についてはどうでしょうか。
(2)の探偵費用ですが、今回のケースでは、被告は原告との関係が妻にばれたことで、予告なく、原告のLINEアカウントをブロックし、その他の連絡手段もすべてブロックまたは拒否して連絡手段を絶ちました。
そのため、原告は、被告の身元を身辺調査するために探偵に依頼しました。その費用も賠償が認められています。
一般に、不倫の損害賠償請求では、不倫の調査費用は損害賠償として認められないことが多く、これを賠償の対象として認めたのは、珍しい気がします。

