●責任追及を考えるならLINEのやりとりは「消さない」
──判決では、不法行為を認める事情として、性交渉の存在のほか、長期の旅行、性交渉のないデートなどについて言及されています。のちのちトラブルとなった際に、どのような行動が訴訟で有効に働くのでしょうか。
交際相手が既婚だとわかった場合の対応ですが、そのあとも関係を続けてしまうと、本当に不倫の賠償責任を負いかねないので、控えるべきです。
責任追及を考えるのであれば、LINEのやり取りなどは証拠になるので消さないようにすべきでしょう。
今回のように、LINEのやり取りで、電話番号も教えられていないと身元の把握も困難となります。できれば、交際中に、電話番号や自動車のナンバーなど、いざとなったときに身元を追跡するための情報を把握しておいたほうがいいです。
●女性にとって「性犯罪に類する行為」ではないか
──原告は「独身偽装被害者の会」というXアカウントを立ち上げ、「独身偽装」の被害について積極的な情報を発信しています。判決後には「同じ目に遭う人を1人でも減らしたい」と語りました。
判決によれば、被告男性は「結婚生活も9年目を迎え、家庭を離れて非日常的な楽しい時間が欲しい」と考えて、マッチングアプリに登録して、原告と連絡をとって性的関係を続けたようです。
世の中には、既婚者用のマッチングアプリもあるのだから、家庭を離れた出会いを求めるにしても、独身と偽る必要はないはずで、あえて独身を装ったのは、結婚への期待に付け込むものであり、悪質な行為です。
性的自己決定権侵害は、性的自由が侵害されたという意味で、被害女性にとっては「性犯罪被害に類するもの」とも言えるので、慰謝料額はもっと高くなってよいのではないかと思います。
【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。
事務所名:みえ市民法律事務所
事務所URL:https://miecitizenlaw.com/

