亘が選んだのは、プロを輩出することを目指す指導者がいる地域の強豪クラブチーム。入会初日から達也は周りのレベルに圧倒されるが、亘は「怯むな」と期待をかけて―――。
夫が選んだチームは「ガチ勢」だった
夫がクラブチーム選びで重視したのは、コーチ陣の質、練習のハードさ、そして何よりも「生徒たちの真剣度」だった。結果、わが家が住む地域で、常にタイトルを争う一番強いクラブチームに決まったの。
「このクラブは指導者が本気でプロを育てようとしてる。それに応えるだけの熱意がないなら、金と時間のムダだからな」
入会が決まってからも、亘の口癖は変わらなかった。まるで、達也のサッカーへの情熱が試されているような雰囲気で、息が詰まると思った。
レベルの高すぎる練習に圧倒
入会初日の練習見学は、私たち親子にとって、強烈な洗礼となった。
達也と同じ小学1年生の子どもたちだというのに、そのプレーは尋常じゃなかった。パスは正確で、スピードも力強い。みんなが目を血走らせてボールを追いかけ、声が枯れるほど叫び合っている。達也が今まで通っていた「お遊び教室」とは、次元が違った。
「わぁ……すごい」
私は思わず、達也の隣で声を漏らした。隣の達也は、キラキラした目でフィールドを見つめているけれど、その瞳の奥には、ほんのわずかだけど、恐怖のようなものが宿っているように見えた。
「おい達也、見てみろ。あれが本気ってやつだ。みんなうまいだろう?お前もあの中に入れ。怯むなよ」
亘は興奮した様子で、達也の肩をたたく。その大きな手が、達也の小さな体をさらに小さく見せた。美香子は、その時、周りの大人たちにも圧倒されていた。
保護者の皆さんも、真剣そのもの。お母さんたちはビデオカメラを構え、お父さんたちは身振り手振りで子どもに指示を出している。みんな、わが子がこのチームのレギュラーとして、将来プロになることを夢見ているようだった。

