晴れの日の木馬たち
『晴れの日の木馬たち』──小説家を夢見る工女・すてらが出会う「芸術の奇跡」
『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』『リーチ先生』『たゆたえども沈まず』など、美術史を鮮やかに再構築する物語を生み出してきた原田マハが、今回はついに 自身の「化身」ともいえる主人公 を描きだした。
その少女の名は、すてら。
貧しくも誠実に生きる工女であり、「いつか小説を書く」ことを夢見る若き女性だ。
この主人公に注ぎ込まれた熱量について、リリースでは「著者自身の情熱を重ねた」と明言されており、ファンにとっても新たな“原点回帰”となる作品といえるだろう。
カバーには、ロベール・ドアノーの写真《シャン・ド・マルスの騎馬隊、1969年6月》が採用されている。
ドアノーの静謐で幻想的なモチーフが、すてらの人生の象徴――「雨の日もあるが、いつか晴れる」という物語のテーマを暗示するようだ。
工女から小説家へ。アートが少女の運命を変える
物語は1910年の岡山から幕を開ける。
母に見捨てられながらも、病に倒れゆく父の深い愛に包まれて育った少女・すてらは、父の治療費を支えるため倉敷紡績で働き始める。
そこで彼女は、同社社長である 大原孫三郎 と出会う。
言わずと知れた日本近代美術のパトロンで、後の大原美術館創設にもつながる人物だ。
大原から贈られた雑誌『白樺』──その1冊が、すてらの運命を大きく変える。
そこに掲載されていたのは、 フィンセント・ファン・ゴッホ の絵画。
さらに武者小路実篤による批評文が、すてらの胸に火を灯す。
「ゴッホが絵を描いたように、自分は小説を書く」
彼女の内側に芽生えた確信は、まさに“創造への目覚め”そのもの。
アートとの邂逅をきっかけに、自らの道を切り開こうとする姿は、これまで原田作品に登場した多くの芸術家の魂と響き合う。
20歳手前で倉敷紡績を退職したすてらは、岡山の富家で住み込みで働き始めるが、ある出来事をきっかけに追い出されてしまう。
そんな中手を差し伸べたのは、幼少期から彼女を見守ってきた宣教師・アリス。
その励ましを胸に、すてらは東京へ向かい、ついに流行作家の家で書生として迎えられることになる。
しかし、その先に待つ道は平坦ではない。
成功も、挫折も、雨のように降り注ぐ日々。
それでも「雨はいつかきっとあがる」と信じ、すてらはひたむきに自身の物語を紡いでいく。
