原田マハ渾身の“アート長篇”最新作 『晴れの日の木馬たち』──小説家を夢見る工女・すてらが出会う「芸術の奇跡」

“芸術が人を救う”という原田マハの信念が、鮮烈な物語へ

晴れの日の木馬たち晴れの日の木馬たち

原田マハが今回描くのは、単なる成長物語ではない。

ゴッホとの精神的共鳴、白樺派文学の思想、大原孫三郎という芸術支援者との出会い──
近代日本におけるアートと文学の交錯 が、ひとりの少女の人生とともに立ち上がる作品である。

原田マハは美術史を学び、森美術館の設立準備室にも携わった後、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に派遣された経歴を持つ作家だ。
アートの最前線で培った美意識と情熱が、これまで数々のアート小説を生みだしてきた。

『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』では美術館と名画を巡るミステリーを、
『リーチ先生』では日本陶芸を、
『たゆたえども沈まず』では若きゴッホと日本の浮世絵を描いた。

そんな原田マハが今回は、芸術家本人ではなく “芸術に魅入られた普通の少女” を主人公にしている点が実に印象的だ。

すてらは画家ではなく小説家志望。
だが、芸術そのものに人生を賭けようとする熱は、ゴッホにも似た“純粋ゆえの危うさ”を孕む。
アートに導かれ、アートに救われようとする主人公の姿は、まるで著者自身の若き日の情熱を鏡のように映し出す。

「すてらは私の化身」という一文は、本作が単なる歴史小説でも芸術小説でもない、
“原田マハの物語の核心”に位置付けられる作品であることを示している。

アート好きも文学好きも惹きつける、時代と情熱のドラマ

本作の舞台は、日本が近代化の波を受けて大きく変わろうとしていた1910年代。

倉敷紡績という当時の先端産業、美術への深い理解を持ったパトロンたち、
白樺派が切り開いた「個人・芸術・自由」の思想──
これらは日本の近代美術史を語るうえで欠かせない要素だ。

すてらの人生は、そうしたアートの潮流を背景に、
「自分は何を表現して生きるのか」という根源的な問いと向き合っていく。

これは現代を生きる私たち読者にも通じる、普遍的なテーマだ。

どしゃぶりの日のような絶望も、
晴れ渡る空のような希望も、
すてらは作品を通じて読者にそっと手渡してくれる。

配信元: イロハニアート

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