結衣さんは菓子折りを手に、下の階の住人である田中浩さん(仮名・50代、単身赴任)の部屋を訪れた。しかし、田中さんは菓子折りを受け取ろうとせず、結衣さんの謝罪にもどこか冷淡な態度を見せた。
「小さな子どもがいるのだから泣き声は仕方ないですよ、うちも単身赴任ですが、子どもがいるので理解してます」
と、一見理解を示すような言葉を口にした。だが、その後に続く言葉は、結衣さんにとって全く理解できないものだった。
「ただ、深夜にドンドンする音が気になるんですよ」
結衣さんと陽太くんは毎日午後9時には就寝し、結衣さん自身も布団に入れば静かにスマホを操作する程度で、大きな物音を立てることはない。夫もテレビを見たりゲームをしたりすることはあるものの、物音を立てるようなことはなく、朝が早い仕事のため午後11時には布団に入っていた。
つまり、深夜に家族の誰もが起きて活動していることはあり得ないのだ。不可解な苦情に戸惑いながらも、結衣さんはとりあえず謝罪し、その場を後にした。
階下の住人と話をするものの…
管理会社から、大家である結衣さんの父に、電話がかかってきました。内容は、「上の階の騒音がうるさい」というものでした。たしかに、新生児の息子との生活で、バタバタする音はするかもしれません。
そこで、菓子折りを持って、直接謝罪へ訪れた結衣さん。ところが、身に覚えのないことを指摘されてしまったのです。困惑しつつも謝罪をし、その場をあとにします。
謝罪の直後、再び激しい音に襲われる
陽太くんが泣きわめき、手足をバタバタさせていたその時、再び「ドンドン」という激しい音が響いた。
その衝撃は前回をはるかに上回り、棚に置いてあったコップが床に落ちて割れてしまった。幸いにも、幼い陽太くんに怪我はなかったものの、あと一歩間違えば、破片が飛び散り、取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。
結衣さんは、この出来事に強い憤りを感じた。これまでの「ドンドン」は単なる威嚇だったが、今回は明確な物理的被害を伴うもの。このままでは、いつか陽太くんが危険な目に遭うかもしれない。そう思った結衣さんは、意を決して田中さんの部屋へ向かった。
コップが割れるほど、下から大きな衝撃が響いたなんて…。とてもおそろしいですね。一歩間違えれば、大ケガにもつながりかねません。
わが子を守るため、結衣さんは再び階下を尋ねます。

