更年期障害のホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)は、更年期障害の代表的な治療法です。不足したエストロゲンを補うことで、多くの症状の改善が期待できます。ここでは、HRTの仕組みと効果について詳しく解説します。
HRTの仕組みと適応症
ホルモン補充療法(HRT)は、減少したエストロゲンを薬剤によって補充する治療法です。内服薬、貼付剤(パッチ)、塗布剤(ジェル)など、さまざまな投与方法があります。子宮を摘出していない方には、子宮内膜の増殖を防ぐためにプロゲステロン(黄体ホルモン)も併用されます。
HRTは、ホットフラッシュや発汗などの血管運動神経症状に高い効果を示します。治療開始から数週間で症状の軽減を実感する方が多いです。また腟の乾燥や性交痛、泌尿器症状の改善にも役立ち、骨密度の低下の抑制や骨粗鬆症の予防にも有効とされています。
症状が日常生活に支障をきたしている方や、45歳未満で閉経を迎えた方に、骨や心血管系の健康を守るため、特に推奨されることがあります。ただし、乳がんや子宮体がんの既往がある方、血栓症のリスクが高い方、重度の肝機能障害がある方は注意が必要です。使用期間や量は医師と相談しながら決定する必要があります。
HRTの効果と注意すべき副作用
HRTには、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)や発汗の頻度・強さの軽減、睡眠の質の改善、気分の安定、抑うつ症状の緩和など、多様な効果が期待できます。皮膚や粘膜の潤いが戻ることで、乾燥症状が和らぐほか、関節痛や筋肉痛が改善するケースもあります。
長期的な効果として特に重要なのが、骨密度の維持です。HRTは骨吸収を抑制し、骨量の減少を防ぐため、骨粗鬆症やそれに伴う骨折リスクの低減に役立ちます。また、閉経後10年未満かつ60歳未満で治療を開始した場合は、心血管疾患(CVD)リスクが低下する可能性が示されており、「ウィンドウ・オブ・オポチュニティ(治療開始の適切な時期)」の概念が重視されています。一方で、閉経後10年以上経過してからの開始や60歳以上での開始は、CVDリスクが上昇する可能性があるため注意が必要です。
副作用としては、治療開始初期に乳房の張り・痛み、不正出血、吐き気などがみられることがありますが、多くは継続するうちに軽減します。ただし、HRTのリスクは開始年齢、使用期間、投与経路(経口か経皮か)、プロゲステロンの併用の有無などによって大きく異なります。特に長期使用の場合には、乳がんや血栓症のリスクが増加する可能性が指摘されており、リスクが高い群では慎重な判断が求められます。
そのため、HRTを安全に続けるためには、定期的な乳がん検診や血液検査を受けながら、医師と相談して自身に合った投与方法・期間を選ぶことが重要です。
更年期障害の非ホルモン治療法
HRTが適さない方や、ホルモン療法以外の選択肢を希望する方には、非ホルモン治療があります。薬物療法だけでなく、生活習慣の改善も症状緩和に役立ちます。ここでは、非ホルモン治療の選択肢について説明します。
抗うつ薬やその他の薬物療法
非ホルモン治療として、特定の抗うつ薬が用いられることがあります。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は、低用量での使用によって、ホットフラッシュの軽減や精神症状の改善に効果があることが報告されています。ホルモン療法に比べて効果は穏やかですが、乳がんの既往がある方や血栓症のリスクが高い方にも使用できる利点があります。
また血圧を調整する薬剤がホットフラッシュに有効な場合もあります。骨密度の低下が心配な方には、ビタミンDやカルシウムのサプリメント、骨粗鬆症治療薬が用いられることもあります。薬物療法を選択する際には、症状はもちろん、ほかに服用している薬との相互作用や既往症も考慮し、複数の治療を組み合わせることで、より良い効果が得られるでしょう。
生活習慣の改善とセルフケア
薬物療法と並行して、生活習慣の見直しも症状の軽減に大きく役立ちます。規則正しい睡眠やバランスの取れた食事、適度な運動は、更年期症状の緩和だけでなく、全身の健康維持にも欠かせません。
運動は、ウォーキングやヨガ、水泳などの有酸素運動に加え、筋力トレーニングを取り入れることで、筋肉量の減少を防ぎ、関節や骨への負担を軽減できます。週に3回以上、30分を目安に行うといいでしょう。食事では、大豆製品に含まれるイソフラボンが、エストロゲンに似た働きを持つため、豆腐や納豆、豆乳などを日常的に取り入れることで、症状の軽減に役立つ可能性があります。また、カルシウムやビタミンDも十分に摂取し、骨の健康を保つことも大切です。
ストレス管理も欠かせません。深呼吸や瞑想、趣味の時間などで心を休ませ、同じ悩みを持つ人と話すことで前向きな気持ちを取り戻せるでしょう。

