訪れた国は約40カ国。サウナと旅をこよなく愛するタレント・モデル・俳優の清水みさとさんの連載エッセイ。4回めはザッハトルテのうまれた地、ウィーンでのお話。
【連載】清水みさと「旅をせずにはいられない」vol.4 今年の旅を振り返る
ウィーンからこんにちは。
気温は3℃。冬のウィーンは、空気が乾いてキリッとしている。外を歩いていると自然と背筋が伸びて、それがこの美しい街にすっと馴染んでいく気がした。
この地で発祥のザッハトルテは、かなり甘いと聞いていたけれど、たまたま入ったお店のものは甘さが控えめで、生クリームとよく合っていた。旅中に思いがけず当たりに出会えると、嬉しさに拍車がかかってしまう。
ウィーンの老舗カフェ・菓子店「Gerstner K. u. K. Hofzuckerbäcker」
そんな余韻を胸に、わたしは今、ウィーンから電車に揺られて、チェコの国境近くにあるサウナへ向かっている。
片道およそ二時間弱。サウナ以外なにもない静かな街なので、サウナに入って帰るだけ。わざわざ感は否めないけど、わたしは好きなものに対する「わざわざ」が嫌いじゃない。
好きなものに会いにいくときは、距離も時間もあまり気にならなくて、むしろ向かっている途中ですら、すでに目的地に触れているような気がして嬉しくなる。さらにいうと、そんなことで嬉しくなってる自分にも嬉しくなる(幸せもの)。
今日は、車窓からの景色がほぼもやで真っ白だ。よく言えば幻想的で、普通に言えば天気が悪い。
単調な白が続く、少し地味な車窓。そんな景色をぼんやり眺めながらポテチを食べていたら、今年の旅のことをふと振り返りたくなった。
ポテチを置いて、Googleカレンダーを開き、1月からの旅の記録を辿った。
初日の出を見たメキシコに始まり、インド、ジョージア、ウズベキスタン、カザフスタン、フィンランド、アイスランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、台湾、モンゴル、韓国、スウェーデン、イギリス、アイスランド(今年2回目)、アメリカ、トルコ、ベトナム、スロバキア。
そして、今、オーストリア。
(9月トルコ)
(7月モンゴル)
(5月アイスランド)
(2月インド)
ふつうに、行きすぎたなと思った。半年前の6月の時点で、すでに「行きすぎ!」と言われていたのだから、今さら驚くことでもないけれど、それでもこうして書き出してみると、ようやく実感が追いついてきた。
わたしは、好きなこととなるととことん夢中になる性質で、物を買うより、どこかへ行くことに心が動くほうだ。だから旅をするたび、ほんとうに仕事を頑張ってよかったと心底思うし、来年もわたしはきっと働くたびに、旅したくなる。
自分の行きたい気持ちがはっきりしてくると、立ち止まる選択も悪くないと思えてきた。今向かっているサウナは、チェコの国境まで歩いて20分。うっかり行ってしまいそうな距離にある。なんなら今の今まで、ちょっとだけ行こうとしていたけれど、やっぱりやめようかなと思った。
21カ国。その数字が、ふいに主張をし始めて、旅より先に数のほうが浮かび上がってきた。
わたしは、国の数よりその土地でちゃんと心を使いたい。だから、散歩みたいに通り過ぎるだけの場所を、思い出が詰まった今年の旅に並べるのは、やっぱり違う気がして、チェコは来年、そうとっさに自分に言い聞かせて、真っ白な窓の外を見た。
来年行きたい国を数えてみたら、もう両手じゃ足りなくて、ああ、わたしは本当に懲りないなぁと思う。でもきっと、その懲りなさが、わたしを今日まで連れてきてくれたわけで、だからまぁ、みんな多めにみてよってことである(なにが)。
やっぱりわたしは、旅をせずにはいられなくて、そんな性分ではじまったこのエッセイだし、こんな自分にやさしいタイトル、なかなかない。
電車に揺られながら、考えて、腑に落ちて、決めて、手放して、あちこち思いを巡らせていたら、どうやらまもなく着くらしい。外は相変わらず真っ白で、ほとんど動いてないようだったけど、わたしの内側はずいぶん旅をしたっぽい。チェコを遠目に、ここまでが今年の旅になるよと自分に言い聞かせた。
うん、悪くない。
photograph & text:MISATO SHIMIZU

