経済力のある女性が陥りやすい《支配の罠》 お金が作る"共依存"の恐ろしさとは|阿部恭子

経済力のある女性が陥りやすい《支配の罠》 お金が作る"共依存"の恐ろしさとは|阿部恭子

夫を手に入れた代償

ある日、平穏な日々を壊す出来事がありました。その日、夫は買い物に行くというので、私はひとりで出社していました。

私に電話が入ると、警察だというのです。

「ご主人を、条例違反容疑で逮捕しています」

私は知人の弁護士に連絡を取り、すぐに一緒に警察署に向かいました。夫は電車内で女性のスカートの中を携帯で盗撮したというのです。証拠が残っているのだから、言い逃れはできません。

「ごめん、ちょっとしたイタズラ心というか、こんな騒ぎになるとは思わなくて……」

夫の言い訳に、私は何と答えて良いかわかりませんでした。

弁護人からは、罰金を払って終わるので会社にバレることもないだろうと言われ、胸を撫で下ろしました。父に知られてしまえば、ただでは済みません。

「盗撮は常習性があるから気を付けてね」

帰り際、弁護人からそう助言されましたが、だからといってどうすればいいのか、私には見当がつきませんでした。

夫は馬鹿なことをしたと自分を責めていたし、私が何か言うことで、これ以上夫を追い詰めることだけはしたくない。人生一度の過ちとして私は受け入れ、許すことにしました。

それからしばらく、ふたりとも事件には触れずに時間が過ぎていきました。

ところが1年後、夫はまた逮捕されました。今度は、私たちが暮らす自宅付近で、帰宅途中の女性に抱きついたというのです。

警察の話によれば、他にも何件か余罪があるということでした。思い当たる節があるとすれば、最近、私が入浴する頃いつも、煙草を買いに行くと言って出かけるようになっていたことです。

なかなか戻ってこないので心配になり携帯に電話をかけると、煙草を吸っていたというのです。夫が煙草を吸い始めたのも、つい最近のことでした。

今回は実名報道され、家族も知るところとなってしまいました。私はこの事件を機に、会社を退社して独立を決意しました。法律事務所で働いていましたが、十分にひとりでやっていける人脈とノウハウは身に付けていました。私の会社ならば、夫が働いていても誰に文句を言われる筋合いはありません。

被害女性には500万円の示談金を支払いましたが、起訴は免れず、私は情状証人として裁判で証言することになりました。私がついてさえいれば、安定した住居も仕事も確保できることから、更生の環境としては完璧です。夫は執行猶予付き判決を得ることができました。

釈放された夫は申し訳なさそうにしていて、私の目を見ることができませんでした。

「何も言わなくていいわ。私がずっと面倒見ていくから」

夫は子どものように泣き出しました。

私は自分の会社を設立することで、夫とともに生活を立て直すことにしたのです。

面倒を見るべきは妻か親か

ところが夫が釈放されて間もなく、夫の兄が話をしたいと私を訪ねてきました。

「悦子さんには本当に迷惑をかけてしまって、なんてお詫びしたらよいか言葉もありません」

義兄は深々と頭を下げました。

「もういいんです。気にしないでください」

「真治と話をしましたか?」

「何のことでしょうか?」

「多分、真治からは言いにくいだろうと思って、私から話しに来たんです」

夫が私に言いにくいこととは一体どんなことだろう……。

「真治は、うちの会社で預かろうと思いまして」

あまりに予想外の義兄の提案に、私は驚きを隠せませんでした。

「え? どういうことですか?」

「悦子さんに良くしていただいていることには感謝しています。ただ、奥さんに雇われている身分というのは世間体が悪い。真治はそれを気にしているんです」

世間体が悪いといったって、自立できないんだから仕方がないじゃないか……。私はそう反論したかったのですが、口には出せませんでした。

「親の会社っていうのもなんですが、奥さんのところよりは……」

ヒモよりニートがマシということか……。

「それで、真治は私と別れたがっているのでしょうか?」

「いや、そこまでは……。うちとしましては、真治はうちの会社で働いてもらい、働いた分の給料は支払います。その方が悦子さんにとってもいいのではないかと思いまして。もっと早く、そうしておくべきでした。本当に申し訳ございません」

義兄はそう言って、何度も深々と頭を下げました。普段、人に頭を下げるような地位にはいない人なのに……。

それでも私は夫と離婚するつもりはありません。ただ会社は別々になり、夫のプライベートへの干渉を減らすよう心掛けるようになりました。自分の給料で、女性のいるお店に通うくらいは我慢することにしました。性犯罪を起こされるより、よっぽどマシです。

夫にとって私は性的対象でないことには気が付いていました。私にとって夫は弟のような存在で一緒にいると居心地が良く、私の側を離れて欲しくありませんでした。

その思いが強すぎて、友人との交流やマスターベーションにまで口を出して制限していたのです。ふたりでカウンセリングを受けるようになって、こうした家庭内のストレスが夫の犯行の原因だったことに私は気づかされました。

夫は40歳を過ぎていますが、未だに司法試験に受からないどころか、何の資格も取得できてはいません。親の会社で事務職に就いていますが、月給は15万ほどで家賃や生活費は私が負担しています。

世間から見れば頼りない夫かもしれませんが、経済力のある父や兄には当然のように愛人がいました。私は妻として、そういう屈辱だけは味わいたくないのです。だから、夫のようなヒモ体質の男が丁度いいのでしょう。

配信元: 幻冬舎plus

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