最近「百日咳」が増えているみたい。名前は知っているけれど、どんな病気なの?風邪とは対策方法も違ってくるの?そんな疑問について、林外科・内科クリニック理事長の林裕章先生にお伺いしました。

「最近、ニュースで百日咳(ひゃくにちぜき)が増えていると聞いたけれど、どんな病気?」「子どもの咳がなかなか止まらなくて心配・・・」
そんな不安をお持ちのママ・パパも多いのではないでしょうか。百日咳は名前の通り、長く続く咳が特徴ですが、実は「ただ咳が長引くだけ」ではありません。特に赤ちゃんにとっては怖い病気になり得ますが、正しい知識があれば過度に恐れる必要はありません。
今回は、家庭でできるケアから、受診の目安、予防法までを詳しくお話します。
最近よく聞く「百日咳」ってどんな病気?
百日咳は、「百日咳菌(ひゃくにちぜききん)」という細菌に感染して起こる呼吸器の病気です。名前の由来は「百日も続くほどしつこい咳」。実際には、回復まで2~3ヶ月かかることもあります。
○特徴的な症状の経過
最初は普通の風邪と見分けがつきませんが、徐々に特徴的な咳に変わっていきます。
1)風邪のような時期(カタル期):
鼻水、くしゃみ、微熱など、普通の風邪と同じ症状。実はこの時期が一番感染力が強いです。
2)咳が激しくなる時期(痙咳期:けいがいき):
「コンコンコンコン!」と激しく咳き込み、その直後に息を吸うときに「ヒュー」という笛のような音が鳴 る発作(これをレプリーゼと呼びます)を繰り返します。顔が真っ赤になったり、咳き込んで吐いてしまったりすることもあります。
3)回復期:
激しい発作は減りますが、少しの刺激でまた咳が出ることがあり、忘れた頃にぶり返すこともあります。全体で2~3か月続くこともあります。
【専門用語解説:レプリーゼ】息を吐ききって苦しくなった後、急いで息を吸い込むときに喉が狭くなって出る「ヒュー」「ヒー」という高い音のことです。百日咳に特徴的なサインです。
大人もかかるの?赤ちゃんへの影響は?
「子どもの病気」と思われがちですが、実は大人も感染します。
○大人の場合
国立感染症研究所のまとめでは、百日咳ワクチンの免疫は接種後3~4年ほどで弱まるとされており、大人は免疫を持っていることが多いため、子どものような「ヒュー」という音が出ないことが多く、「長引くしつこい咳」程度で済むことが一般的です。
そのため、百日咳と気づかずに生活し、知らない間に周囲(特に赤ちゃん)にうつしてしまうケースが問題視されています。
○赤ちゃん(特に生後6ヶ月未満)の場合
ここが一番知っておいてほしいポイントです。赤ちゃん、特に生後6ヶ月未満の乳児がかかると、咳が出ずに「息が止まる(無呼吸発作)」を起こすことがあり、非常に危険です。重症化して肺炎や脳症を起こすこともあるため、「赤ちゃんにうつさない」ことが何より重要です。

かかってしまったら?学校や園は?
もし診断された場合、日常生活で気をつけることと、出席停止のルールについて解説します。
○お家でできるケア(日常生活の工夫)
・特効薬的な食材はありませんが、咳き込みを誘発しない環境づくりが大切です。
・湿度を保つ:乾燥は咳の大敵です。加湿器などで湿度を50~60%に保ちましょう。
・食事は「少しずつ」:一度にたくさん食べると、咳き込んだ拍子に全部吐いてしまうことがあります。「少量頻回(少しの量を回数多く)」を心がけましょう。
・刺激を避ける:タバコの煙、冷たい空気、激しい運動は咳の発作を誘発します。
○学校・保育園・幼稚園の出席停止ルール
学校保健安全法という法律で、出席停止の基準が決まっています。
基準:
「特有の咳(激しい咳き込みやレプリーゼ)がなくなるまで」または「適切な抗菌薬(抗生物質)を5日間飲み終わるまで」。
対応:
医師が「もう感染力がない」と判断すれば、咳が少し残っていても登校・登園許可が出ることがあります。
逆に自己判断で「少し咳が残るけどもういいか」と登校させると、クラスやきょうだい、赤ちゃんへの感染源になるリスクがあります。必ずかかりつけ医に確認しましょう。
おすすめの食事や食材は?
喉の粘膜をいたわり、体力を落とさない工夫が大切です。
◎おすすめの食材:
・ビタミンA・Cを含むもの:カボチャ、人参、ブロッコリー、果物など(粘膜を強くし、免疫をサポート)。
・消化が良く、喉越しの良いもの:うどん、ゼリー、ヨーグルト、茶碗蒸し。
・蜂蜜(はちみつ):1歳以上のお子さんであれば、寝る前のスプーン1杯の蜂蜜が咳を和らげるという報告があります。
【重要】1歳未満の赤ちゃんには、ボツリヌス症のリスクがあるため絶対に与えないでください。
●避けたほうがよいもの:
パサパサしたもの(クッキー、パンなど)、辛いもの、熱すぎるもの、冷たすぎるもの。これらは咳のスイッチを入れてしまいます。
一番の予防は「ワクチン」と「大人の意識」
百日咳は非常に感染力が強い(インフルエンザの約10倍とも言われます)ため、手洗い・うがいだけでは防ぎきれないことがあります。
確実な予防法:四種混合(または五種混合)ワクチン
生後2ヶ月から始まる定期接種(四種混合:DPT-IPV、または五種混合)に含まれています。計4回の接種を適切な時期にしっかり受けることが、重症化を防ぐ最大の鍵です。母子手帳を確認し、打ち忘れがないかチェックしましょう。
○大人も注意が必要
子どもの頃に打ったワクチンの効果は、大人になると弱まっています。「咳が長引いているな」と思ったら、赤ちゃんに会うのを控える、マスクをするなどの配慮が、小さな命を守ることにつながります。
こんな時はすぐに病院へ!
○日中の小児科受診をおすすめしたいケース
◆1~2週間以上、咳が続いている。
◆咳のあとに何度も吐いてしまう。
◆周囲(園・学校・家族)に百日咳の人がいる。
◆予防接種が終わっていない乳幼児の、夜間の咳き込み。
○救急受診・救急車を考えてほしいサイン
とくに生後6か月未満の乳児で、次のような場合は迷わず救急です:
◇咳のあとに顔や唇が真っ青・紫になる。
◇息が止まりそう/実際に止まる時間がある。
◇ぐったりして反応が乏しい。
◇水分・母乳・ミルクがほとんど飲めない。
公的資料でも、乳児では無呼吸・チアノーゼ・けいれん・呼吸停止に至ることがあり、肺炎・脳症など重い合併症が報告されています。
出典・参考情報
厚生労働省: 百日咳とは
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/whooping_cough.html
日本小児科学会: 学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002q4hg-att/2r9852000002q4lb.pdf
国立健康危機管理研究機構: 感染症情報提供サイト 百日咳
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/pertussis-m/pertussis-iasrtpc/10453-496t.html
まとめ
百日咳は「昔の病気」ではなく、今も身近にある病気です。「ただの風邪かな?」と思っても、激しい咳が続く場合は早めの受診を心がけてください。家庭でできる一番の予防は、手洗い・咳エチケット・換気+定期接種(四種混合)の確認です。
何より、ワクチンで防げる病気ですので、接種スケジュールを大切にしてくださいね。まずは「母子手帳」を開いて、お子さんの予防接種の欄をチェックしてみませんか?「四種混合(または五種混合)」が規定の回数(1期初回3回+追加1回)済んでいるか、確認してみましょう。
※本記事の作成にあたり、文章表現の確認や校閲の一部に生成AIを使用しております。
執筆者

林裕章
林外科・内科クリニック理事長。国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。
現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。科学的根拠だけでは語れない、人間の心理に寄り添う医療を実践している。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。

