糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は、自覚症状が乏しいまま進行するため「サイレントキラー」と呼ばれています。これらを放置すれば、心筋梗塞や心不全など命に関わる重篤な心臓病を引き起こす可能性があります。しかし、近年は健診や外来診療での早期検査によって「見えない糸」を可視化し、心臓を守る治療介入が可能になってきました。今回は、白楽内科循環器クリニック院長の市川晋也先生に、生活習慣病と心疾患の関係や早期検査の重要性、そして最新の予防・治療アプローチについて伺いました。

監修医師:
市川 晋也(白楽内科循環器クリニック)
浜松医科大学医学部医学科卒業、横浜市立大学大学院博士課程修了後、済生会横浜市南部病院、神奈川県警友会けいゆう病院、日本赤十字社大森赤十字病院、横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター・高度救命救急センター、JCHO横浜保土ケ谷中央病院を経て現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医。
生活習慣病と心臓疾患の深い関係
編集部
はじめに、生活習慣病と心臓病はどのように関わっているのか教えてください。
市川先生
生活習慣病は単なる「数値の異常」ではありません。高血圧や糖尿病、脂質異常症はいずれも血管や心臓に大きな負担をかけ、長期的には深刻な心疾患へつながります。高血圧を例にとると、常に高い圧力が心臓にかかることで左心室が厚くなり(左室肥大)、やがて心不全に進展します。糖尿病は血糖値の変動が血管内皮を傷つけ、動脈硬化を加速させます。その結果、心筋梗塞や狭心症のリスクは糖尿病ではない方に比べて2〜4倍に跳ね上がります。
編集部
脂質異常症も心臓に関わってくるのですか?
市川先生
もちろんです。LDLコレステロールが高い状態が続くと、冠動脈の内壁にプラークが形成されます。これは血管の「時限爆弾」のようなもので、破綻すれば急性心筋梗塞を引き起こします。脂質異常症は見逃しがちですが、心血管疾患のリスクを高める状態といえるでしょう。
編集部
症状が出ていなくても安心できないのでしょうか?
市川先生
実はそこが一番の落とし穴です。生活習慣病は、症状がない段階でも静かに心臓に負担をかけています。「何も感じないから安心」という考えは危険で、むしろその時期にこそ早めの検査が必要なのです。
“見えない糸”を見つけ出す早期検査
編集部
症状が出ていないのに、異常を見つけ出すことはできるのでしょうか?
市川先生
まず基本となるのは、健診や外来での心電図や血液検査です。これで不整脈や心筋障害の兆候、脂質異常の有無などを把握できます。ただし、これだけでは十分でないこともあります。循環器内科では、特に経過が長いなどリスクが高い症例については心エコー検査で心臓の動きや構造を詳しく観察します。頚動脈エコーやABI(足関節上腕血圧比)では動脈硬化による血管の狭窄を拾うことができます。リスクの高い症例に対して数値だけに着目せず、結果として全身にどのような影響が起こっているのかを定期的に確認することが重要だと考えています。
編集部
症状がなくても、検査でリスクを拾えるのですね。
市川先生
その通りです。心疾患は「症状が出てからでは遅い」という特徴があります。胸の違和感や息切れが出たときには、すでに病気がかなり進んでいることが少なくありません。だからこそ早期検査が重要なのです。
編集部
海外や国内のガイドラインでも推奨されていると伺いました。
市川先生
はい。欧州心臓病学会(ESC)や米国心臓協会(AHA)、そして日本の循環器学会や糖尿病学会の合同ガイドラインでも、生活習慣病の患者さんに対して心血管リスク評価を早期におこなうことが推奨されています。特に糖尿病の患者さんに関しては、心血管疾患の既往がなくても、循環器的なスクリーニングを検討すべきとされています。

