●不正の職員「仕事遅いと思われたくなかった」
報道によると、当該職員は本件不正の動機について「短期間で鑑定を終わらせることで、自分の評価を上げられると思った。仕事が遅いと思われたくなかった」と話しているようである。
佐賀県警は、7年以上不正が見過ごされていた理由として「鑑定業務は基本的に一人で行い、鑑定結果の多くは書類で決裁しているため、本来は上司が行うべき精査や確認が不十分であった」としている。
ただし、上記理由が正しいかどうかには疑問が残る。当該職員が担当していた件数は異常に多いというわけではないし、鑑定の機械を当該職員が他の職員と共用していたかどうかなど、まだ明らかにされていない事項もあるからだ。
職員個人の問題に矮小化することはできず、不正の原因を明らかにするためにも第三者機関による調査は不可欠である。
識者からは「証拠に対する意識が低い」(田淵浩二・九州大学法学部教授)、「鑑定の増加による職員への負担は、不正行為が発生する要因の一つになり得る」(平岡義博・立命館大学衣笠総合研究機構上席研究員)といった声が上がっている。
しかし、佐賀県警は、原因を含む調査結果の詳細を明らかにしていない。
●「一個人の不正」ではない組織的な欠陥
本件不正は、これまで高い客観性・公正性が期待されてきた科捜研の科学鑑定全般に対する信頼を失墜させる極めて重大な問題である。
前述したとおり、本件は「一個人の不正」として片付けるべきではない。
鑑定機関が捜査機関の内部に設置されている構造的問題や、刑事手続において科学鑑定の重要度が増すことにより実施件数が増大することに比して、人的・物的環境が十分に整備されないという問題、組織的なチェック体制の不備など、組織レベルの欠陥が背景にあると理解すべきだ。
さらに、本件不正発覚後の佐賀県警の対応は、およそ誠実な態度であったとは言い難い。警察組織として本件を隠ぺい、または過小評価する態度があるという非難を免れ得ない。
警察が組織として秘密体質を有し、その結果として警察全体に対する国民の信頼を損なうものであったと批判されるべきである。
【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:https://www.handa-law.jp/

