逆流性食道炎は、胃酸などの内容物が食道に逆流することで胸やけやのどの違和感、咳などの不快な症状を引き起こす病気です。食生活の欧米化や肥満、加齢、ストレスなどが発症に関係し、再発をくり返すこともあります。
治療の基本は、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(P-CAB)を用いた薬物療法です。しかし、薬を服用しても症状が残る方もおり、そのような場合に消化管運動機能改善薬や漢方薬を併用することで症状の軽減が得られることがあります。漢方薬は、胃腸の動きやストレス反応を整える作用があり、体質や症状に合わせて用いられます。
本記事では、逆流性食道炎の治療における漢方薬の役割や効果、副作用、服用時の注意点を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
逆流性食道炎の治療法

逆流性食道炎とはどのような病気ですか?
逆流性食道炎は、胃の中の酸や消化液が食道に逆流し、胸やけや酸っぱい液が上がる感覚、のどの違和感などを起こす病気です。食道は胃ほど酸に強くないため、胃酸が繰り返し触れることで炎症やびらんが生じます。
主な症状は、胸の中央が焼けるように熱い、食後や横になると症状が強まる、のどが詰まる感じがするなどです。原因には、加齢や肥満による腹圧上昇、食道の動きの低下、食事内容、ストレスなどが関係しています。油っこい食事やアルコール、過食、寝る前の飲食なども症状を悪化させる要因です。
逆流性食道炎の一般的な治療法を教えてください
治療の基本は、胃酸の分泌を抑える薬を使って食道の炎症を落ち着かせることです。主にプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(P-CAB)を用います。これらの薬を服用することで胸やけや呑酸といった症状が改善していきます。症状が軽快した後は、薬の量を減らして維持療法を行うこともあります。薬で十分に改善しない場合には、胃や食道の動きを整える薬や、胃の粘膜を保護する薬を追加することがあります。
逆流性食道炎の治療と漢方

逆流性食道炎の治療ではどのようなときに漢方が用いられますか?
酸分泌を抑える薬を服用しても、胸やけや胃もたれ、のどの違和感が続く場合に、症状や体質の特徴を踏まえて漢方薬を処方します。
特に、胃の動きが悪く食後の膨満感が強い方、ストレスや緊張で症状が悪化する方、胸やのどのつかえ感が続く方には、漢方を併用することで症状の改善をめざします。漢方薬は、胃酸の分泌そのものを抑えるのではなく、胃腸の動きや自律神経の働きを整えることで全身のバランスを回復させる点が特徴です。
逆流性食道炎の治療で使用される漢方薬の種類を教えてください
逆流性食道炎の治療で処方する漢方薬には、六君子湯(りっくんしとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などがあります。
六君子湯は、胃の働きが低下し、食後の胃もたれや膨満感、食欲低下を訴える方に処方します。食後に重さを感じやすい方や、疲れやすく食事量が減っている方に適しています。
半夏瀉心湯は、胸やけやゲップ、胃の張り感などが強い方に用います。胃の不快感が長引く、またはみぞおちのあたりに違和感が残る場合に処方します。
半夏厚朴湯は、のどのつかえ感や胸の圧迫感を訴える方、ストレスや不安で症状が悪化する方に適しています。精神的な緊張が関係する逆流症状にも使用します。
これらの漢方薬は、酸分泌を抑える薬で改善しきれない症状を補う目的で処方し、体質や生活状況に合わせて使い分けます。
参照:『逆流性食道炎に対する漢方治療』(昭和大学江東豊洲病院消化器センター)
逆流性食道炎の治療において漢方を使用するとどのような効果が得られますか?
酸分泌抑制薬で十分に改善しない胸やけや胃の張り、のどの違和感などに対して、漢方薬を併用することで症状が和らぐことがあります。
六君子湯は胃の動きを整えて食後の膨満感を軽くし、半夏瀉心湯は胃の不快感や熱っぽさを抑えます。
半夏厚朴湯はストレスや緊張で強まるつかえ感や咽頭の違和感を軽減します。これらを体質や症状に合わせて使い分けることで、酸分泌抑制薬の効果を補い、日常生活の不快感を減らすことを目的とします。
漢方が逆流性食道炎を改善するメカニズムを教えてください
漢方薬は、胃酸を直接抑えるのではなく、消化管の動き・粘膜環境・神経の調整を通して症状をやわらげます。六君子湯は胃の蠕動を促進して胃内容物の停滞を防ぎ、半夏瀉心湯は胃粘膜の炎症を抑え、酸による刺激をやわらげます。半夏厚朴湯は食道やのどの筋緊張をゆるめ、自律神経のバランスを整えることでつかえ感を改善します。

