薄毛は決して男性だけの悩みではありません。女性も年齢やホルモン変化などによって、徐々に髪が細くなったり、ボリュームが減ったりすることがあります。そこで、医師の中島陽太先生(紀尾井町クリニック東京本院)に、女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の特徴・治療法・植毛の可能性について聞きました。
≫【1分動画でわかる】女性の「薄毛治療」を医師が解説 男性のAGAと違うの?
監修医師:
中島 陽太(紀尾井町クリニック東京本院)
2010年東邦大学医学部を卒業。東邦大学医療センター大森病院で手術加療を中心に研鑽を積み、泌尿器科助教を歴任。2021年より紀尾井町クリニックにて自毛植毛治療に従事。日本泌尿器科学会専門医・指導医。国際毛髪外科学会、日本泌尿器科学会、日本性機能学会、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会に所属。著作『薄毛の治し方』(現代書林社)。男性ホルモン研究を通じてAGA治療に関心を深め、患者一人ひとりに最適な治療法を提案している。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)って?男性の薄毛とは違うの?
編集部
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)はどういう状態を指すのでしょうか?
中島先生
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)は、女性における進行性の脱毛で、男性のように生え際が後退するよりも、髪全体が細くなり、分け目や頭頂部の透けが目立つようになるパターンが多いです。男性型脱毛症(AGA)とは原因や進行の仕方に違いがあります。
編集部
原因にはどのようなものがありますか?
中島先生
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の薄毛や脱毛の原因は、まだはっきりとは分かっていませんが、遺伝・ホルモンバランスの変化(特にエストロゲン低下とアンドロゲン優位化)、加齢、生活習慣、ストレス、栄養不足(鉄・亜鉛など)などが組み合わさって発症していると言われています。また、自己免疫疾患や甲状腺疾患などが関与することもあります。
編集部
どのような生活習慣が影響するのですか?
中島先生
睡眠不足、ストレス、偏食、過度なダイエット、喫煙などは頭皮環境を悪化させたりホルモンバランスを崩したりして、脱毛を促進させる要因になり得ます。
編集部
男性のAGAとはどう違うのですか?
中島先生
男性のAGAはテストステロンという男性ホルモンが最も大きな影響を及ぼします。一方、女性では、ホルモンバランスの変化(女性ホルモンの低下に伴う、相対的な男性ホルモンの増加)も薄毛の原因ではありますが、それ以外にも栄養状態やストレス、多様な要因が関与していると考えられています。治療に使える薬も同じではありませんし、使える同じ薬でも濃度が異なっているなどの違いがあります。
治療法の選択肢とそれぞれの特徴
編集部
FPHLに対する治療法にはどんなものがありますか?
中島先生
最も多くおこなわれているのは薬物療法です。ただし男性と比べると、女性の場合は使用できる薬物が少ないというのが現状です。現時点で女性型脱毛症に最も広く使用されているのはミノキシジル外用薬です。男性のAGAの治療に最もよく使われるフィナステリドやデュタステリドは、女性に対しては基本的には使用されません。
編集部
それ以外に使われる薬はありますか?
中島先生
ミノキシジルで効果がみられないケースには、抗アンドロゲン薬(スピロノラクトン、フルタミドなど)を併用するケースもありますが、高用量では低血圧や高カリウム血症など副作用のリスクもあるため、慎重に使われます。また薬剤以外では、LEDおよび低出力レーザー照射をおこなうケースもあります。
編集部
では、植毛は可能ですか?
中島先生
可能です。特に医薬品で効果が不十分な部位に対しては、自毛植毛が選択されることが多くあります。代表的なのは「FUT法」と「FUE法」です。女性の場合は薄毛の範囲が広くなるケースが多いため、移植デザインや株数の配分などが非常に大事です。
編集部
植毛について、もう少し詳しく教えてください。
中島先生
FUT法は後頭部の皮膚を帯状に切り取って毛根単位に切り分けてから移植するため、沢山の移植株を広い範囲に移植することが可能です。一方FUE法は専用の器具で毛根を1つずつくり抜くようにして採取して移植するため、毛根を採取したときにできる後頭部の傷が目立ちにくいというメリットがあります。基本的な方法は男性と同じですが、頭皮の薄さ・剃毛範囲・デザイン性への配慮など、女性特有の要素を考慮した技術が求められます。

