公園での練習中、達也は年上の上手な子との1対1に惨敗し、泣きながら逃げ出す。亘は「逃げるやつに資格はない」「金と時間の無駄」と達也のいる部屋へ向けて静かに暴言を吐いてしまい…。
偶然クラブチームの子と練習をすることに
日曜日の午後。私は達也の気持ちを少しでも軽くしてあげたいと思い、公園に連れ出した。家族でのラフな時間なら、達也もサッカーを楽しむことができていた。
「前よりボールが強くなったね」
「ドリブルも速くなったね」
達也の変化をほめてあげると、うれしそうにしていた。達也はやっぱり、サッカーが好きなのだ。
「達也いいか、トラップしたら、すぐにドリブル!そうだ!いいじゃん!」
亘の大きな声が響く中、達也はぎこちないながらもボールを追っていた。その時だった。
「あれ、達也!」
公園の奥から、見慣れたユニフォームを着た少年が現れた。達也が通うクラブチームの1つ上の学年のお兄ちゃん、翔太くんだった。翔太くんは明るい子で、達也にも優しく話しかけてくれた。
「俺も一緒にやりたい!達也、一緒にやろうよ」
その様子を見て、亘はうれしそうだった。
「先輩に胸を借りろ、達也」
亘は目を輝かせた。翔太くんは、上の学年の中でも特に上手な子だし、達也の刺激になると思ったのだろう。でも、達也はあまり気乗りしなそうな顔をしていた。きっと自信がなかったのだと思う。
ついに失われてしまった自信
そして、翔太くんとの1対1が始まった。結果は、もちろん惨敗。翔太くんのスピードとテクニックに、達也は全くついていけない。ボールを奪おうと足を出しても、軽くいなされて置き去りにされる。
シュートを打たれて、達也がゴールを守れなかった瞬間、達也は顔を真っ赤にして、ボールを拾おうともしなかった。
「もうやだ!」
達也はそう叫ぶと、ボールを放り出し、泣きながら公園から走り去ってしまった。翔太くんはきょとんとしていたけれど、亘の表情からは怒りとイライラが見て取れた。
「おい、達也!待て!逃げるなよ!」
亘の声が届くことはなかった。

