①『りりりりり』—聞こえ方の違いを楽しもう
五味太郎 作『りりりりり』偕成社(1995年)
2歳からのお子さんが楽しめる『りりりりり』は、ページを開いてあっと驚く絵本です。なんと、すべてのページが「り」の文字と絵だけで表現されています。
五味太郎 作『りりりりり』偕成社(1995年)p.10, 11
物語は、ひとつの部屋から始まり、やがて外へとシーンが移り変わっていきます。
大きな橋と乗り物が描かれたページの文字に注目すると、「り・り・り・り・り」と「り・り・り‥‥り・り」の2種類の音があると気づくでしょう。みなさんには、それぞれどんな音に聞こえるでしょうか?
車や船の音、もしかしたら虫の鳴き声かも……と想像を膨らませてみると、「り」という言葉から、音の世界が広がっていきます。
シンプルな音と文字をたどると、全体のストーリーが見えてくるとともに、お子さんが自由に想像する余白が生まれます。「この車はどこに行くのかな?」「舟には誰が乗っているのかな?」など、小さな物語を考えてみるのも面白いですよ。
五味太郎 作『りりりりり』偕成社(1995年)p.20, 21
本作で印象に残るのが、工場のような建物とゴミが描かれたシーンです。この場所から聞こえてくるのは、どんな音でしょうか?虫の音色、それとも壊れた自転車の音か……。
作者の五味太郎氏は、1973年に絵本作家としてデビューし、400冊以上もの作品を手がけていますが、ゴミが登場するシーンを描いている点が、ひとつの特徴です。
生活の中で必ず出るゴミは、身近な存在でもあります。ありのままに表現された日常の風景は、読者が自然と身の回りを観察するきっかけになるのではないでしょうか。
普段の生活と身近な音を結びつけた『りりりりり』。たったひとつの音から物語が広がっていくというユニークな発想は、絵と文字にこだわり抜く五味氏ならではの表現だと言えます。
『りりりりり』をはじめとする「音と文字の絵本シリーズ」は、全部で10冊刊行されています。他の作品ではどのような音が見えてくるのか、聞こえ方や感じ方のバリエーションを、ぜひ親子で楽しんでみてくださいね。
※参考:小野明 選書・文「五味太郎の絵本をどうぞ。」、竹内清乃編『別冊太陽 日本のこころ281 五味太郎 みちはつづくよ…… どこまでゆくの?』、平凡社、2020年、p.3〜5
②『つきよのおんがくかい』—楽器の音色を全身で味わってみよう
山下洋輔 文、柚木沙弥郎 絵、秦好史郎 構成『つきよのおんがくかい』福音館書店(1999年)
次にご紹介するのは、3歳から小学校低学年のお子さんにおすすめの『つきよのおんがくかい』。ジャズピアニストの山下洋輔氏の文章と、染色家の柚木沙弥郎(ゆのき さみろう)氏の絵が響き合う、ライブ感あふれる作品です。
山下洋輔 文、柚木沙弥郎 絵、秦好史郎 構成『つきよのおんがくかい』福音館書店(1999年)p.10, 11
物語の舞台は、満月の夜の山頂。主人公の少年・こうちゃんが、月を見ようと山に登ると、動物のジャズマンたちが楽器を持って集まってきたところに遭遇します。
山下洋輔 文、柚木沙弥郎 絵、秦好史郎 構成『つきよのおんがくかい』福音館書店(1999年)p.14, 15
いよいよ演奏が始まると、ユニークな音が次々に飛び出します。ピアノは「キャンキョン カリコレカリコレ」、サックスは「シャバドビドバー」。普段イメージするピアノやドラムの音色とはひと味違った、より感覚的な音楽に触れられますよ。
山下洋輔 文、柚木沙弥郎 絵、秦好史郎 構成『つきよのおんがくかい』福音館書店(1999年)p.18, 19
ページをめくるごとに、演奏が白熱し、音の調子と身体の動きが、よりダイナミックになっていく様子を体感できます。
こうした臨場感あふれる描写は、実際の音楽体験から生まれました。1997年に、木城えほんの郷で開催された山下氏のジャズコンサートが、本作の原点となっています。柚木氏は現地に足を運び、演奏の様子をスケッチしたそうです。(※1)
また、山下氏は、「絵本づくりはジャズの演奏と似て、画家や編集者との『共演』です。こちらがこういう音を出すと、相手はこんな音で返してくる。絵本も同じで、そのやりとりが楽しいのです」(※2)と語っています。
山下氏と柚木氏の表現のセッションが、即興音楽の軽やかさと一体感を生み出していると言えるでしょう。
お子さんと一緒に、「この楽器はどんな音がするかな?」と想像したり、「どんなふうに弾いているのかな?」と動きを真似したりと、全身を使って音楽を味わってみましょう!
(※1)水沢勉監修『柚木沙弥郎 永遠のいま』平凡社、2024年、p.76
(※2)山下洋輔 「音楽家と絵本」、小野明『絵本の冒険「絵」と「ことば」で楽しむ』フィルムアート社、2018年、p.124
