ICLとIPCLの違いとは?それぞれの特徴と失敗しない選び方

ICLとIPCLの違いとは?それぞれの特徴と失敗しない選び方

角膜を削るレーシックとは異なり、ICL(Implantable Collamer Lens)やIPCL(Implantable Phakic Contact Lens)は、水晶体を残したまま眼内にレンズを挿入して屈折異常を矯正する治療法です。

角膜が薄い方や強度近視の方でも治療を受けられる可能性があり、医師による取り出しも可能であることが特徴です。しかし、二つのレンズには素材や構造など多くの違いがあります。
そこで本記事では、ICLとIPCLそれぞれの特徴を解説します。

ICLとIPCLとは?


まずはICLとIPCLそれぞれのレンズがどのように誕生し、どのような仕組みで視力を矯正しているのかを押さえておきましょう。

ICL

ICLはImplantable Collamer Lensの略で、1980年代に開発が始まり、1997年に日本に導入された治療法です。ICL治療はレーシックと異なり、角膜は削らずに角膜の縁に約3mmの切開創を設け、そこからレンズを挿入して、近視や乱視、遠視を矯正します。

当初は眼圧上昇による緑内障の発症や白内障の発症が懸念されていました。しかし、2011年以降に登場し、2014年に日本の厚生労働省の承認を取得したV4cモデルでは、中央に直径0.36mmのホールを開けることで眼球内部を満たす液体である房水の循環を確保し、白内障や眼圧上昇のリスクを下げることが可能となりました。
ICLは30年以上の実績があり、世界75ヶ国で300万枚以上販売されています。

参照:JSCRS『JSCRSの調査発表』

IPCL

IPCLはImplantable Phakic Contact Lensの略で、2014年に海外で発売されたレンズです。手術の方法は、ICLと同じです。

形はICLと違い、レンズ中央と周辺部に計7つの孔、6本の支持部があります。

IPCLは2025年4月に近視および近視性乱視用レンズが日本の厚生労働省の承認を取得したばかりのため、治療実績もICLほど長くはありません。

※2025年12月時点

ICLとIPCLの違い


ここからは、ICLとIPCLの主な違いを、素材や機能、コスト、安全性などの観点から詳しく解説します。

素材(含水率)

ICLとIPCLの素材と特徴、含水率は次の通りです。

素材名 特徴 含水率

ICL 紫外線吸収剤・コラーゲン含有HEMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)

生体適合性が高く、眼内で異物と認識されにくい

柔らかく透明度が高い

柔軟性を持ちつつ、長期にわたり安定して眼内に留まりやすい

レンズの回転頻度が低い

素材の特性として、炎症が最小限に抑えられます

36%

IPCL ハイブリッド親水性アクリル

レンズが薄い

レンズの回転頻度が高い

26%

含水率とは、物体に含まれる水分の割合を示す指標です。含水率が高い素材は一般的に柔らかい傾向があります。

参照:BMC ophthalmology『Atomic force microscopy comparative analysis of the surface roughness of two posterior chamber phakic intraocular lens models: ICL versus IPCL』
参照:Collamer(コラマー) | アイクリニック東京【公式】
参照:Rotational Stability After Implantation of Two Different Phakic Toric Intraocular Lenses

度数の範囲

ICLとIPCLでは、度数の範囲にも違いがあります。

球面度数 乱視度数

ICL -3.0D〜-18.0D +1.0D〜+4.5D

IPCL -3.0D〜-20.0D +1.0D〜+6.0D

ICLは一般的な近視や乱視に広く適応できますが、-15.0Dを超える球面度数では対応が難しいケースもあります。

一方のIPCLは、-20.0D程度までの球面度数に対応しています。

サイズ

ICLやIPCLなど、レンズを眼内に挿入する治療法では、個々の目の形状に合わせてレンズのサイズを選択することが重要です。術前に角膜の縁から縁までの値や前房深度(ACD)などを測り、レンズを選びます。
サイズについても、ICLとIPCLにはいくつかの違いがあります。ICLは全長が12.1mm、12.6mm、13.2mm、13.7mmの4種類のサイズで、光学部径は4.9~6.1mm程度です。

IPCLは、全長が11.0~14.0mmまで0.25mm刻みで13サイズ用意されているモデルもあります。

老眼矯正

ICL治療は近視や乱視の矯正を目的とし、基本的に単焦点です。しかし、ICLにもIPCLにも、特殊な多焦点設計で遠用と近用の両方の焦点を同時に矯正できるレンズもあります(※国内未承認)。そのため、40歳前後で老眼が始まった方や、近くの視力低下による眼精疲労対策を重視する方には多焦点設計のレンズが選択肢になります。

構造

ICLのレンズ本体は、支持部(ハプティクス)が4点接触で固定される形状をしています。これに対しIPCL V2.0は6点接触の支持部を備え、虹彩への負担を分散するといわれています。ICLの支持部は固定位置でレンズを保持しますが、IPCLはスプリング効果により多少の張力や眼球内の変動にも対応する設計となっています。

また、レンズ中央部の孔の形状が異なり、ICLはシンプルな円柱形、IPCLは漏斗状の円錐形で、これらの構造設計の違いは、眼内での房水循環や前房・後房の圧力分布がわずかに変化することが考えられます。
一般に、ICLはIPCLに比べて、術後の回転頻度が低いと報告されています。

参照:Rotational Stability After Implantation of Two Different Phakic Toric Intraocular Lenses

費用

ICLとIPCLは健康保険が適用されない自由診療で、手術費用はレンズの種類や手術を受けるクリニックによって差があり、術前検査や医師の熟練度、保証内容、乱視用のレンズを使用するかどうかといった違いなどで費用が変動します。ICLは安全性が確立されているコラマーという生体適合性の高い素材を使用しているため、クリニックによりますが一般的にIPCLに比べてICLの方が高額になる傾向にあります。

費用には術後の定期検査やアフターケアが含まれていることが少なくなく、メーカー保証が付く場合もあります。

安全性

ICLは30年以上の歴史と世界的な普及実績を持ち、安全性が検証されてきた技術です。近視および近視性乱視用レンズは厚生労働省にも高度管理医療機器として認可されており、国内での累積症例数も多く、術後のレンズ位置調整や交換を含めた再手術率は1%未満と報告されています。
術後の一般的な合併症である感染症や炎症、眼圧上昇、白内障発生などの発生率も低く、現在の主流モデルであるホールICLや術式改善によってリスクはさらに減少傾向にあります。

IPCLは、欧州CEマークは2017年取得、日本では2025年4月に近視および近視性乱視用レンズが厚生労働省に承認されたばかりで実績期間が短いため、長期的な安全性データは多くありません。特に多焦点IPCLでは、白内障や緑内障の進行リスクに関するエビデンスがまだ十分とはいえません。

合併症

ICLとIPCLはともに手術を伴う治療法ですので、眼内炎などの感染症や角膜内皮細胞減少・浮腫、眼圧上昇、白内障、レンズ偏位・回転、ハロー・グレア現象などの合併症リスクがあります。
また、ICLでは中央に透水孔のあるホールICLが用いられるようになってからは、房水循環が良好で緑内障リスクが低くなりましたが、術後にレンズによって閉塞性緑内障を起こす可能性はゼロではありません。

異常を感じたら速やかに眼科を受診し、診察を受けましょう。術後すぐに発症しない合併症もあるため、眼科で経過観察を行うことが重要です。

配信元: Medical DOC

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