「歯列矯正はどういう仕組みで歯が動くんだろう?」「治療期間が長くなると聞くけれど、自分は歯が動きやすいタイプなのか知りたい」とお考えの方もいるかもしれません。
実は歯列矯正は骨の代謝という身体の仕組みを利用して歯を動かしており、治療期間は生活習慣などを見直すことで短縮できる可能性があります。
この記事では歯列矯正で歯が動く詳しい仕組みから歯が動きやすい方、動きにくい方の特徴、さらに治療期間を短くするためのコツまで詳しく解説します。
歯列矯正による歯の動きの仕組みと過程

歯並びを整える治療では、装置で歯に持続的な力を加えて位置を動かします。
この力は歯の根の周りにある歯根膜という薄い膜に伝わります。歯根膜は歯とそれを支える骨との間でクッションの役割を果たしている仕組みです。
力が加わると、動かしたい方向の骨が吸収されてスペースが生まれ、反対側では新しい骨が作られます。
この骨の吸収と再生のサイクルをリモデリングと呼び、歯が少しずつ移動していく状態です。この仕組みは、骨折が治るプロセスと似ています。
治療は診断と計画策定から始まり、装置をつけて定期的に調整したり、経過を観察したりして進んでいくでしょう。目標の位置に歯が並んだら、後戻りを防ぐための保定期間に入ります。
歯列矯正での歯の動かし方

歯列矯正での歯の動かし方は以下のとおりです。
水平移動
傾斜移動
回転させる
引っ込める
引っ張り出す
これらの動かし方を精密にコントロールすることで、きれいな歯並びを作ります。
それぞれの動かし方について詳しく解説します。
水平移動
水平移動は歯体移動とも呼ばれ、歯の頭部分と根を一緒に平行移動させる動かし方です。歯の傾きを変えずに歯をスライドさせるように動かすのが特徴です。
例えば、抜歯をして生まれた隙間を閉じたり歯列全体を後方へ移動させたりするときに用いられます。歯の軸を保ったまま動かすため、歯根膜全体に均等な力がかかるように調整が必要です。
ほかの動かし方と比べて歯の根まで大きく動かすため、力のコントロールが求められます。理想的な歯並びを作るために欠かせない、基本的かつ重要な歯の動かし方といえるでしょう。
傾斜移動

傾斜移動はティッピングとも呼ばれ、歯の頭部分に力をかけて傾けるように動かす方法です。歯の根の先あたりを支点にしてシーソーのように歯を傾斜させます。
この動きでは歯の頭部分が大きく動くのに対して、根の先の移動量は少なくなります。例えば、前方に傾いている歯を起こしたり、少し倒れている歯の角度を修正したりする場合に効果的です。
歯全体を平行に動かす水平移動に比べると、少ない力で歯を動かしやすいのが利点になります。特に前歯の角度を細かく調整したいときなど、部分的な修正で頻繁に用いられる動かし方です。
回転させる
ねじれて生えている歯を正しい向きに整える動きを捻転の改善といいます。これは歯の縦軸を中心に歯を回転させる動かし方です。ガタガタした歯並びの原因が歯のねじれである場合に、この動きが必要となります。
歯を回転させる際は回転の中心点を定め、そこへ適切な回転力を加えることが必要です。ワイヤーやアタッチメントといった装置を工夫して、精密な力をかけていきます。
歯の根は一本とは限らず、形状も複雑なため回転の動きはほかの移動方法より時間がかかる傾向があります。また、治療後に元の位置に戻ろうとする後戻りが起きやすい動きなので、治療後の保定がとても重要です。
捻転は見た目だけでなく、歯磨きがしにくくむし歯や歯周病のリスクを高めます。改善することで清掃性が向上し、お口の健康を長く保つことにつながります。
そのためリテーナーなどによる、よりしっかりとした保定が欠かせません。
引っ込める

歯を骨の方向へ沈ませるように動かすことを圧下と呼びます。例えば、伸びすぎてしまった歯を元の高さに戻したり、深く噛み込んでいる状態を改善したりするために用います。
この圧下は歯を動かす方法のなかでも技術的に難易度が高いです。歯の根の先に力を集中させ、骨のなかに歯を少しずつ沈めていくため、繊細な力の調整が不可欠です。
特に奥歯は複数の根があり、強い力に耐える構造なので圧下させるのは簡単ではありません。そのため、歯科用のアンカースクリューという小さなネジを補助的に使用して、効率的に力をかけることもあります。
治療計画には精密な診断が不可欠で、全体の噛み合わせを整え、長期的な口腔内の健康を維持する上で重要です。また歯根吸収といったリスク管理や、患者さん自身の丁寧な口腔ケアも成功の鍵となります。
引っ張り出す
歯を歯肉から引き出す動きを挺出と呼びます。これは、骨のなかに埋まってしまっている歯を正しい位置まで引っ張り出したり、歯が短く見える状態を改善したりするときに用いられる動かし方です。
隣の歯などを支点として、ワイヤーやゴムで継続的に引っ張る力を加えます。力が加わることで、歯の周りの組織が活性化し、歯は骨とともに少しずつ移動します。
歯を引っ張り出す挺出は歯を動かすなかでもスムーズに進みやすい動きです。折れた歯の根を歯肉の上に引き出して、被せ物の土台として利用する際にも応用される重要な技術の一つです。
歯茎のラインを整える審美目的でも行われます。
治療後の後戻りを防ぐ保定も重要で、計画的な力の管理が歯や歯周組織への負担を最小限に抑えます。

