2型糖尿病の発症には遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合っており、家族歴や肥満、運動不足、加齢といった複数のリスク因子が重なることで発症の可能性が高まります。初期段階では自覚症状が乏しく、健診で偶然発見されることも少なくありません。しかし血糖値が高い状態が続くと、多飲・多尿や体重減少、疲労感、視力の変化といった症状が徐々に現れ始めます。皮膚の異常や手足のしびれなど見逃しやすいサインもあるため、小さな変化に気づいたら早めに受診することが大切です。

監修医師:
小坂 真琴(医師)
2022年4月~2024年3月、今村総合病院(鹿児島県鹿児島市)で初期研修を修了
2024年4月よりオレンジホームケアクリニック(福井県福井市) 非常勤医師として在宅診療を行いながら、福島県立医科大学放射線健康管理学講座大学院生として研究に従事
2025年10月よりナビタスクリニックに勤務
週1度、相馬中央病院 (福島県相馬市) 非常勤医師として内科外来を担当
生活習慣と加齢による影響
2型糖尿病の発症には日常の生活習慣が深く関わっており、食事や運動、睡眠といった要素が積み重なることでリスクが変化します。また、加齢に伴う身体機能の変化も無視できない要因です。
食事習慣と運動不足
糖尿病と聞くと「甘いものの食べすぎ」というイメージを持つ人も多いですが、実際には“食習慣全体の傾き”が問題になります。過剰なカロリー摂取や糖質・脂質に偏った食事は、血糖値の上昇と体重増加を招きます。特に現代では外食やコンビニ食が日常的になり、気づかないうちに糖質や脂質が多い食事を選んでしまう傾向があります。精製された炭水化物や砂糖を多く含む食品は血糖値を急激に上昇させやすく、膵臓に負担をかける原因となります。一方で食物繊維を豊富に含む野菜や全粒穀物は血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。食事内容を少し工夫するだけでも、血糖コントロールは大きく変わります。
運動不足も大きなリスク因子です。筋肉はブドウ糖をエネルギーとして使う器官のひとつで、筋肉量が多いほど糖を効率的に消費できます。身体活動が少ないと筋肉量が減少し、筋肉が糖を取り込む能力が低下します。定期的な有酸素運動や筋力トレーニングは筋肉のインスリン感受性を高め、血糖コントロールを改善する効果が期待できます。通勤時に歩く距離を増やす、階段を使う、週末に軽いジョギングを行うといった小さな習慣の積み重ねが予防につながるのです。
加齢に伴う代謝変化
年齢を重ねると誰でも筋肉量が自然と減少し、基礎代謝が低下していきます。基礎代謝とは、何もしていなくても生命維持のために使われるエネルギーのことで、これが下がると同じ食事量でも太りやすくなったり、血糖値が下がりにくくなったりします。また加齢とともに膵臓の機能も徐々に低下していきます。インスリンの分泌能力が少しずつ低下するため、40代・50代以降は血糖値が上がりやすい年代といえるでしょう。生活習慣病は年齢とともに増えやすく、高血圧や脂質異常症が重なると、血糖値が上がりやすい状態が促進されることもあります。
ただし、加齢が避けられないからといって発症が必然というわけではありません。若い頃から適切な体重管理と運動習慣を維持し、定期的な健康診断を受けることで、加齢によるリスクの上昇を抑えることが可能です。高齢になってからでも生活習慣の改善は効果を発揮するため、何歳であっても取り組む意義は大きいといえます。
2型糖尿病の初期症状
2型糖尿病は、発症してもすぐにはっきりとした症状が現れにくいため、多くの人が気づかないまま進行してしまいます。そのため、健康診断や別の疾患の検査で偶然発見されるケースも少なくありません。しかし、血糖値が高い状態が続くと徐々に身体にさまざまなサインが現れます。早期に気づいて対処することで、合併症のリスクを大幅に減らすことができます。
高血糖が進み始めた段階で現れる特徴的な症状
2型糖尿病では、発症のごく初期には自覚できる症状がほとんどないことが多く、健診で偶然見つかるケースが大半です。しかし、血糖値の高い状態がある程度続くと、身体が糖をうまく利用できないことによる特徴的な症状が現れ始めます。
代表的なのが、多飲・多尿や体重減少といった変化です。血糖値が高い状態では、腎臓が余った糖を尿として排出しようとするため、尿量が増え、喉の渇きが強くなります。また、インスリンの作用不足により細胞が十分なエネルギーを得られなくなると、体内の脂肪や筋肉が分解され、食事量が変わらないにも関わらず体重が減少することがあります。
これらの症状は初期というよりは、高血糖がある程度進行してきた段階で自覚されるものです。日常生活で明らかな体調の変化を感じた場合には、早めに医療機関で血糖値を確認することが重要です。
疲労感と視力の変化
血糖値が高い状態では細胞にブドウ糖が十分に取り込まれないため、全身のエネルギー不足が生じます。これにより慢性的な疲労感や倦怠感を感じやすくなります。この疲労感や倦怠感は、仕事の忙しさやストレス、更年期などの別の理由と間違われやすく、糖尿病との関連に気づきにくい症状のひとつです。十分に休息をとっても疲れが取れない、日常的な活動が以前より辛く感じるといった変化は、血糖コントロールの乱れを示唆する可能性があります。
また、血糖値の変動は目にも影響します。高血糖になると、眼の細胞内の水分バランスが変化し、水晶体がむくみやすくなり、一時的にピントが合いにくくなることがあります。また、高血糖が長期間続くと網膜の血管にダメージが蓄積し、糖尿病網膜症という合併症を引き起こすリスクが高まります。視力の異常や目のかすみを感じた場合は、眼科と内科の両方で検査を受けることが望ましいでしょう。

