「空腹時に酔いやすい理由」をご存じですか? アルコール吸収のメカニズムを医師が解説

「空腹時に酔いやすい理由」をご存じですか? アルコール吸収のメカニズムを医師が解説

アルコールを口にすると、体内では複雑な化学反応が始まります。エタノールは他の栄養素とは異なる経路で処理され、吸収から分解まで独特のプロセスをたどります。このメカニズムを理解することで、なぜ飲酒後に特有の症状が現れるのか、また飲み方によってどのような違いが生じるのかが明確になります。身体がアルコールをどのように扱っているのか、その仕組みを詳しく見ていきましょう。

小坂 真琴

監修医師:
小坂 真琴(医師)

2022年、東京大学医学部卒業
2022年4月~2024年3月、今村総合病院(鹿児島県鹿児島市)で初期研修を修了
2024年4月よりオレンジホームケアクリニック(福井県福井市) 非常勤医師として在宅診療を行いながら、福島県立医科大学放射線健康管理学講座大学院生として研究に従事
2025年10月よりナビタスクリニックに勤務
週1度、相馬中央病院 (福島県相馬市) 非常勤医師として内科外来を担当

アルコールが体内で作用する仕組み

アルコール飲料を口にすると、味や香りを楽しむよりも早く、体の中ではさまざまな変化が始まります。アルコールの主成分であるエタノールが他の栄養成分と違って分解の手順が特殊で、しかも体にとって「必須ではない物質」です。そのため体はできるだけ早く処理しようと働きます。このプロセスを理解すると、なぜアルコールが身体に影響を与えるかが明確になります。

アルコールの吸収と分解の過程

アルコールが体内に入ると、まず主に小腸で吸収されますが、胃からも一部吸収されます。特に小腸からの吸収が速いため、空腹の状態で飲むと一気に血中アルコール濃度が上がりやすく、食事と一緒に飲むと、胃に食べ物があるためアルコールが小腸へ届く速度が遅くなり、吸収が穏やかになります。血中に入ったアルコールは肝臓で代謝され、まずアセトアルデヒドという物質に変換されます。このアセトアルデヒドは毒性が強く、頭痛や吐き気、動悸といった不快な症状の要因となります。アセトアルデヒドがさらに分解されると酢酸となり、最終的には水と二酸化炭素に分解され、体外へ排出されます。
肝臓でのアルコール分解能力には個人差があり、日本人では1時間に約5〜7gが目安とされており、個人差が大きいと言われています。分解速度を超えてアルコールを摂取すると、血中アルコール濃度が上昇し、酔いが強くなります。

中枢神経系への直接的な作用

アルコールは脳の神経伝達物質に影響を与え、中枢神経系を抑制する作用を持ちます。少量であれば抑制機能が弱まることで気分が高揚しますが、摂取量が増えると、運動機能や判断力、記憶力を司る部分にも影響が及びます。
具体的に脳内では、アルコールがGABA(ガンマアミノ酪酸)という抑制性の神経伝達物質の働きを強める一方、グルタミン酸という興奮性の神経伝達物質の働きを弱めます。この二重の作用により、神経細胞の活動が全体的に抑制されるのです。酔いがさらに進むと、脳の深い部分、つまり生命維持に関係する領域(呼吸・心拍数を調整する中枢)にまで影響が及ぶことがあります。これは危険な状態で、極端な泥酔やアルコール中毒と呼ばれるレベルです。
アルコールは脳全体の働きに広く関わるため、飲み方によっては命に関わる作用を持つことを理解しておきましょう。

まとめ

アルコール飲料は適切に利用すれば、生活に彩りを添える嗜好品となりますが、その作用や影響を正しく理解していないと、健康を損なうリスクがあります。本記事で解説したように、アルコールは中枢神経系に作用し、身体的・精神的にさまざまな影響を及ぼします。依存症は誰にでも起こり得る疾患であり、早期発見と適切な対処が重要です。自分の飲酒習慣を定期的に見直し、気になる点があれば早めに医療機関や専門機関に相談することをおすすめします。

参考文献

厚生労働省「アルコール健康障害対策」

国立病院機構 久里浜医療センター「アルコール依存症について」

e-ヘルスネット(厚生労働省)「アルコールの吸収と分解」

国立精神・神経医療研究センター「薬物・アルコール関連障害」

配信元: Medical DOC

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