臨床現場での選択と今後の展望
編集部
実際の診療では、どのように薬を選択されているのですか?
市川先生
患者さんの背景によって選び分けています。例えば、心不全や腎機能障害がある場合はSGLT2阻害薬を優先します。一方で、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化のリスクが高い方、また肥満を合併している方にはGLP-1受容体作動薬を選ぶことが多いですね。経口のGLP-1受容体作動薬は、原則としてほかの糖尿病治療薬で十分な効果が得られない場合に保険適用で使用されます。そのため、まずは禁忌がなければSGLT2阻害薬を選択することが多いのが実際です。一方で、高度な肥満を伴い血糖コントロールが難しい症例では、チルゼパチドの投与が検討されることもあります。なお、治療効果を高めるため、これらの薬剤を併用するケースも増えています。
編集部
副作用の懸念もあるかと思いますが、その点はいかがでしょう?
市川先生
SGLT2阻害薬は尿中に糖が増えるため、尿路感染や性器感染、頻尿による脱水のリスクが上がります。GLP-1受容体作動薬は吐き気や嘔吐などの消化器症状が出やすいですし、注射製剤が多いことから抵抗感を持つ方もいらっしゃいます。ですから、処方する際にはリスクとメリットを丁寧に説明し、患者さん自身が納得して選択できるよう心がけています。
編集部
費用面も患者さんにとっては重要な要素ですよね。
市川先生
そうですね。新しい薬剤はどうしても薬価が高くなります。ただ、心疾患の発症を防ぐことで長期的には医療費の抑制につながる可能性もあります。費用対効果を踏まえ、患者さんと相談しながら最適な治療を選んでいます。
編集部まとめ
糖尿病治療は「血糖値を下げる」時代から「心臓や腎臓を守る」時代へと大きく変わろうとしています。SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、その変化を象徴する薬剤です。エビデンスに裏付けられた心血管保護効果は、患者さんの生命予後を改善し、より質の高い生活を支える可能性を秘めています。市川先生の言葉からもわかるように、これからの糖尿病治療は単なる血糖コントロールではなく、患者一人ひとりの心血管リスクや生活背景に応じた「総合的な医療」が求められています。

