中学受験「1月平日午前から開講の新講座」中止へ…進学塾「ena」 SNSで「明らかに行き過ぎ」批判集まる

中学受験「1月平日午前から開講の新講座」中止へ…進学塾「ena」 SNSで「明らかに行き過ぎ」批判集まる

中学受験指導などを行う進学塾enaを運営する学究社は、2026年1月に予定していた「小6入試直前必勝特訓」の平日午前からの開講分を中止することを決めた。「諸般の事情」としている。小学校を休むことを前提とした平日開講を巡っては、SNSで「やり過ぎ」などと議論になっており、取材に対して17日、中止すると回答があった。

かねてより直前期に学校を休むことについては度々、議論となってきた。一方で中学受験生の保護者たちからは切実な声も上がる。(ライター・田中瑠衣子)

●1月平日9~16時の講座 「明らかに行き過ぎ」「ニーズありそう」

「大手塾がここまで踏み込めば、塾業界全体の倫理が問われ、社会問題にもなりかねない。明らかに行き過ぎ」

12月15日、Xでこう問題提起したのは、高校受験塾講師のアカウントだ。この投稿に、たちまち2.8万件の「いいね」がついた。

アカウントが問題視したのが、進学塾enaの「小6入試直前必勝特訓」だった。enaは都立中高一貫校の合格実績が高いことで知られる。

enaのサイトによると、「必勝特訓」のスケジュールは1月9日から31日までの計23日間。5つの日程に分け、土曜特訓や日曜・祝日特訓のほか、平日の午前9時から午後4時までと、小学校の授業にかかる日程を組んでいた。内容は、都立中の特徴である「適性検査」対策を行うもので、講座料金は平日5日間受講した場合、8万8000円だった。 Xでは「これは駄目でしょ」「小学校欠席を前提に塾を開くのはおかしい」などの異論が多く出た一方、「ニーズありそう」「1月だけならいいかなと思った」と肯定する声もあり、議論になった。

●最後の追い込みや感染症予防 1月に小学校欠席の実態

中学受験では1月に小学校を休む受験生が一定数いる。

休む理由は主に2つ。1つはインフルエンザなど感染症予防。感染症にかかると入試を受けられなくなってしまう。これまでの努力を無駄にしたくないと、直前期に休むのだ。

もう1つは最後の追い込みだ。中学受験の入試問題は難度が高く、小学校の授業だけでは対応できない。ならば志望校の受験対策を進めて合格を勝ち取りたいという背景だ。東京・神奈川の入試は2月1日から。1月は埼玉や千葉の入試も行われ、ラストスパートの時期だ。

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小学校側はこうした状況を黙認しているようだ。

「小学校から、12月に『1月は何日まで登校するか教えてほしい』という連絡が来ていました。多分給食とかいろいろな調整が必要だったんだと思います」(2025年に子どもが中学受験した保護者)

都内でも中学受験率が高い、東京・港区の小学校に長男を通わせた保護者は「1月は6年生の教室が数人というときもあって、『中受しない組』のうちの子は寂しがっていました」と話す。

2025年2月に長女が中学受験をした、会社員の男性は、直前期の1月は小学校を全て休ませた。「娘の小学校は中学受験する子のほうが少なかった。インフルエンザが流行っていて、感染症におびえて休ませたんです。妻と交代で在宅で仕事をしながら、勉強を見ましたが、閉塞感ある環境に家族でストレスがたまりました」

一方、ふだん通り学校に通わせるという家庭もある。

2026年2月に娘が中学受験する、都内の会社員女性は、入試の日以外はいつも通り、学校に通う予定だ。

「うちの子にとっては、学校の友達とも会わずに、詰め込み勉強することが全くプラスにはならないのが目に見えています。それに合否よりも、無理なく普段通りの生活の中で最高のパフォーマンスを目指す、という経験値重視の受験方針で子どもと合意しています」

ほかにも、試験前の1週間は休ませたり、3学期の始業式だけは出席したりと、各家庭でまちまちのようだ。共働きの家庭では、子ども一人を家に残しておくのは心配という声もある。

保護者の目には、今回の「必勝特訓」はどう映ったのか。

「1月平日の講座は確かに批判もありましたが、多くの受験生が学校を休んで自習しているという現実があり、致し方ない流れかと思います。我が家は地方の学校を受験したのと、感染症対策で1月はほとんど学校に行っていませんでしたが、学校側も慣れているので特に問題はありませんでした。最終的には家庭の判断だと思います」(2024年に子どもが中学受験した保護者)

2024年に中学受験した別の保護者もこう話す。

「enaの夏休みの長期合宿は魅力的でした。本人が嫌がったので参加していませんが、共働きの親だと学童代わりになるのでとても助かると思いました。裏を返せば、そうした、受検対策が必要な都立中高一貫校の試験自体に問題はないのか、本来の目的に合致しているのかと問いたいです」

1月に学校を欠席する受験生がいるという現実があり、小学校も欠席を黙認する中、塾がどこまで手を広げるか。議論は続きそうだ。

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