日本のおにぎりをアメリカで広めたい! シカゴで「Onigiri KORORIN」を開業した日本人のストーリー

日本のおにぎりをアメリカで広めたい! シカゴで「Onigiri KORORIN」を開業した日本人のストーリー

【フリーアナウンサー 渋佐和佳奈のCHICAGOライフ Vol.9】シカゴからアメリカ全土へ! おにぎりの普及に挑戦する「Onigiri KORORIN」

アメリカ・シカゴに2年間住むフリーアナウンサーの渋佐和佳奈さんが、現地に暮らすからこそ感じる魅力や旬なトピックスをお届けする連載。


 


以前本コラムで、シカゴで大人気のコーヒーショップを経営し、世界的に活躍するバリスタ・澤田洋史さんを紹介しましたが、今回はアメリカでビジネスに挑戦する日本人インタビュー 第2弾として、シカゴを拠点にアメリカで日本の“を広めようと挑戦する日本人をご紹介。会社設立までの道のりや、アメリカでビジネスをすること、この先の夢を語っていただきました。

アメリカでもお馴染みフードのSUSHI、RAMEN…次なるブームを狙う「ONIGIRI」

日本を離れ、全く異なる文化のなかで生活をすることは、好奇心が旺盛な私にとっては刺激的で楽しい日々。でも、どうしても恋しくなるものがあります。それは「日本食」。シカゴはアメリカの他都市と比較して特に食のレベルが高いと言われているため、美味しいレストランやミシュランの星を取得しているお店が多くありますが、そのなかでも「SUSHI」や「RAMEN」は大人気! お寿司はスーパーでも日本と同じように売られていて、アメリカでの浸透率の高さを感じます。


 


ただ、日本のコンビニエンスストアをはじめとした、どこでも簡単に手に入るような気軽な「おにぎり」はまだあまり見かけません。そんななか、ふと入ったローカルストアで見覚えのある、あのパッケージに包まれたおにぎりを発見!! Onigiri KORORIN」という可愛らしい名が書かれたその商品は、日本の代表的なソウルフードをアメリカで広めようと、「おにぎり」にフォーカスをあてて起業したある日本人男性によって作られたものでした。今回は特別に Onigiri KORORIN のキッチンに潜入して、共同創業者の勝山雄太さんにお話を伺う機会を頂きました!

自身が手がけるおにぎりを手に、快くインタビューに答えてくれた勝山さん。偶然にも私と同い年で、同じ大学出身であることが判明! 一気に親近感が湧くと共に、同学年の日本人がこのようにアメリカの地で活躍している姿に大きな刺激を受けました。

勝山さんは大学卒業後コンサルティング会社に勤務したのち、シカゴの大学院でビジネスとデザインを学ぶために2018年に渡米。「おにぎり」ビジネスを立ち上げたきっかけを伺うと、大学院時代の忙しい日々の、ある悩みからだったそうです。それは会社員時代に仕事の合間にサクッと食べていた、おにぎりがないこと。「アメリカには寿司やラーメンはあるのに、なぜおにぎりはないのだろう?」と疑問に思った勝山さんは、大学院のプロジェクトでおにぎり用の小さな三角形の炊飯器をデザインしてプレゼンしたところ、クラスメイトや教授に大好評! 「これはビジネスとして可能性があるのでは?」と手応えを感じたそうです。


 


そこで20201月、シカゴの食品ビジネスを支援する団体 The Hatchery で講座を受け起業に向けてのいろはを学びますが、ほどなくして新型コロナウィルスの蔓延によって街はロックダウン。大学院の授業もオンラインに切り替わったことで逆に時間ができたと考えた勝山さんは、会社を設立しHPも作成、そしてコロナ禍という状況でもおにぎりビジネスを始められる形態を探った結果、オンラインで注文を受け、指定の場所におにぎりをピックアップしに来てもらうサービス、Onigiri Shuttle KORORIN を夏にスタートしたそうです。

活動初日の勝山さん(左)。はじめはお客さんが5組ほどで、売れ残りのおにぎりを見てうまくいくのか不安に思いながら活動していたそうです。

Onigiri Shuttle KORORINの存在は徐々に口コミやSNSで広がり、開始1カ月後には地元メディアの目に留まり、ローカル紙に「RICE BALL KING (おにぎりの王様)」と名付けられ取り上げられるほどに。メディアの効果は大きく、その次のシャトル販売時には行列ができ、当時は手作りでおにぎりを作っていたため、オーダーストップをかけるまで人気が高まったそうです。当初は夏休みの期間限定で行う予定だったそうですが、好評を得たことから継続することを決め、同じ大学院の卒業生であるクリスティーナさんを共同創業者に迎えて本格的に事業化することとなりました。

左上:写真左側にいる女性が、クリスティーナさん。 右下:ローカル紙 Chicago Magazine では、当時提供していた焼きおにぎりの作り方が大きな写真付きで掲載されています。他にも地元テレビ局で紹介されるなど、メディアに多数取り上げられたようです。

順調に進んでいた Onigiri Shuttle KORORIN でしたが、シカゴの極寒シーズンに突入すると、外でおにぎりを渡すスタイルが裏目に……。加えて、ロックダウンが緩和され次第にレストランが再開し、食を提供する競合が増えていくなど、苦しい時期が2年ほど続いたと言います。その間、ケータリングやお弁当スタイルでの提供、Uber Eatsと連携するなど、さまざまなビジネスモデルを試行錯誤した結果、たどり着いた先が卸事業への一本化。

シカゴで展開している人気のお店で「Onigiri KORORIN」を発見! 異国の地で、見慣れたこの三角形のパッケージにほっこり。

小売業界にはラテン系の経営者が多いため、クリスティーナさんがメキシコ人であることもプラスに働き、現在取引先はスーパーや大学キャンパス内のカフェなど60店舗にまで拡大。しかもそのほとんどが地元の人たちが利用するスーパーで、安定した客層が見込めるであろう、アジア系スーパーではないから驚き! その点について尋ねると、「自分たちが目指すのは、おにぎりをアメリカでメインストリームな食事にすること。そのために、ターゲットはおにぎりに慣れ親しんでいる日本人やアジアの人というよりは、アメリカの現地の人やおにぎりをまだ知らない人たち。そのぶん難しさはあるけれど、あえて挑戦している」と答えてくれました。また、ニューヨークやカリフォルニアは駐在員を含め日本人が多いエリアですが、そうではないシカゴで始めた理由も「あえて難しいエリアで挑戦することで、ここでおにぎりが受け入れられて成功すれば、アメリカ全土に拡大できると思うから」と、勝山さんの強い信念が込められていました。

物価高もあり、ひとつ$6.95(約¥1,000)。日本人からすると割高ですが、お昼過ぎに買いに行ったときには残りが3つだけに! 別日に行った際には売り切れていて、価値のあるものにしっかりと対価を払うアメリカ人に好評で、日本人として嬉しくなりました。

先日、KORORINを作っているキッチンがある施設を見学させていただきました。ここには大小合わせて61のキッチンがあり、この施設を運営するのが、勝山さんがビジネスを始めるにあたり起業について講義を受けた The Hatchery です。この日は3人の女性が具材を作ったり、おにぎりマシーンを駆使して包装していたり、手際よく作業をしていました。この施設はビジネスを始めたい人の支援だけではなく、地域の人々の雇用創出の場にもなっているそうです。

キッチンの壁には、Onigiri Shuttle KORORIN時代の車につけていた看板が飾られていました。ここで日曜日以外、毎朝6時からおにぎりが作られ、各店舗に届けられます。

作る数は平日800個、土曜日は900個。アメリカ全土で2機しかないおにぎりマシーン(うち1機はハワイ)を導入したことで、手で握っていた当初に比べ、格段に作業ペースがアップしたとのこと。

現在、Onigiri KORORINのスタッフは12人で、勝山さんの他に日本人はいません。「言語も文化も違うぶん、マネジメントする難しさはあるけれど、それぞれの強い個性を見極めて適材適所にはめれば、最強のチームになることを実感している」と勝山さんは話します。また、もともとおにぎりを知らない人たちが作るからこそ、アメリカ人のリアルなフィードバックをもらえることや、アメリカ人好みに作ってくれることがKORORINの強みだと言います。

日本で買うおにぎりより2倍近い具材の多さも、現地スタッフが作るKORORINならではの特徴。

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