
「妹なんか生まれてこなければよかったのに」
障害のある兄弟姉妹を持つ“きょうだい児”。その立場にいる人たちは、誰にも打ち明けられない複雑な思いを胸の奥に抱えて生きている――。
いま注目を集めているコミックエッセイ『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』。衝撃的なタイトルが目を引きますが、著者・うみこさんは、“声にならない声”を可視化したいという思いから、あえてショッキングなタイトルを選んだのだそうです。
タイトルに込めた真意、読者から届いた反響、そして見えてきた“きょうだい児”を取り巻く現実とは? 著者のうみこさんにお話を伺いました。
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』あらすじ



妹・桃乃が「普通じゃない」と気づいたのは、透子が幼稚園児のころ。言葉が通じず、すぐに手が出る妹に手を焼く毎日でした。
ある日、友達が妹と楽しそうにおしゃべりしているのを見て、衝撃を受けます。「しゃべった……妹って話すんだ…」


小学生になってからの透子は、妹の存在により一層悩まされるように。友達と三人で遊ぶ約束をしていたのに「桃乃も連れていってあげて」と母に言われ、仕方なく一緒に出かけた日。桃乃を見た友達は、「今日は二人で遊ぶね」と、そっと離れていってしまいました。

友人たちに悪気があるわけじゃない。そうわかっていても、胸が締めつけられる透子。「桃乃がいたら、シールぐちゃぐちゃにするから……」泣きながら帰宅した透子を、母はぎゅっと抱きしめ、彼女のためだけにオムライスを作ってくれました。

いつもは偏食の桃乃が食べられる料理ばかりが並ぶ食卓ですが、その日だけは違います。
「ママが私のために作ってくれた」――それが、何より嬉しかったのです。
思い切ったタイトルに込めた思い

――『妹なんか生まれてこなければよかったのに』。このタイトルに決めた経緯、またタイトルに込めた思いをお聞かせください。
うみこさん:タイトルの「妹なんか生まれてこなければよかったのに」は、私たちにその意図がなくても「障害者差別を助長するのではないか」という批判が起こるのではという怖さを感じながらも、思いきってこのタイトルをつけることにしました。それは、きょうだい児当事者の方が普段、口にできないようなことを、あえてタイトルにしたいと思っていたからです。
きょうだい児の方々の中には、「障害のある兄弟姉妹のケアをするのがつらい」「将来、面倒を見なければいけないことが不安」「障害のある兄弟姉妹のことが嫌い」といった思いを抱えている方もいらっしゃいます。ただ、そんな本音を口にできる場は非常に限られているように思います。その背景には、世間が持つ「きょうだい児」に対する固定観念があるのではないでしょうか。

――「きょうだい児」に対する固定観念というと…?
うみこさん:たとえば、テレビなどで取り上げられるきょうだい児当事者の方は、障害のある兄弟姉妹と良好な関係を築いている人が多く、そこから外れたきょうだい児に対して、親や周囲は「優しくしてあげて」「助けてあげて」と当人の感情を否定するようなことを、つい言ってしまいがちです。
特に、障害のあるお子さんを育てている親御さんの立場からすると、きょうだい児のこうした想いを受け入れられない人もいて、「障害のある兄弟姉妹だって可哀想なのに、どうして、そんなことを考えるの!」と怒ってしまうケースもあるようです。家族や世間から障害のある兄弟姉妹と良好な関係を築き、支えていくことを期待されたり、時にはそれを強制されたりすることが、大変な重荷になっている当事者の方がいます。
とある当事者の方への取材では、障害のある兄弟姉妹と良好な関係を築けているきょうだい児と、そうではない自分を比べて、「なんて自分は性格が悪いんだろう」と自己嫌悪に陥ったこともあったと話されていました。でも、考えてみれば、健常者の兄弟姉妹同士であっても、関係が良好でないケースはたくさんありますし、その方の幼少期から今までのお話を伺って、私はその方のことを「性格が悪い」とは感じませんでした。むしろ、大変な環境にもかかわらず、普通の基準を超えて頑張っているようにも見えました。

――家族のことを重荷に感じてしまう、そんな自分を嫌悪する…真面目に向き合ってきた方ほどそう感じてしまうのかもしれませんね。
うみこさん:きょうだい児と一言で言っても、その立場や思いは様々です。障害のある兄弟姉妹と良好な関係を築いている人もいますが、今回の作品では表面上は関係を続けていても、その内側では複雑な感情や葛藤を抱えている人や家族と縁を切っている人にも読んでもらえるように制作しようと思っていました。
また、衝撃的な言葉をあえてタイトルに置くことで、「きょうだい児」という言葉を知らなかった方々にも広く関心を持ってもらいたいとも考えました。

