「苦しんでいたのは自分だけじゃなかった」「私も婚約破棄に」読者からの反応は…

――当事者であるきょうだい児の立場の方々からは、どのような声や反応がありましたか?
うみこさん:「苦しんでいたのは自分だけではなかったのだと救われました」という感想や、「きょうだい児という立場で障害者と向き合うことはこれからも続いていきますが、迷ったときにこの作品のもとに帰ってきたい」と言っていただけたときは、編集さんと「描いてよかったね!」と感動を分かち合いました。
また、親御さんの立場で、この作品を読むと、苦しい場面があるのではと思っていたので、発売後にいただいた親御さんからの感想も貴重でした。「きょうだい児の子どもの心の内を理解したいから読んだ」という方が何人もいらっしゃって、そうした前向きな気持ちで読んでいただけたこともうれしかったです。
「私も婚約破棄になりました。この作品でも綺麗ごとだと感じます」「私もきょうだい児ですが、結婚できました。誰かのせいにしてはいけない」といった感想をいただくこともあります。すべての感想や意見を受け止めたいと思っています。

――様々な反応がある中で、中にはショッキングな感想もあったそうですね。
うみこさん:今回、作品の中では取り上げませんでしたが、障害のある兄弟姉妹から暴力や性暴力を受けているきょうだい児の方から感想をいただくこともありました。本当につらい現状に、読んでいて涙が止まらなくなりました。
暴力や性暴力被害を受けたきょうだい児の心には深い傷が残ります。しかし、「障害のせいなのだから仕方ない」ときょうだい児が我慢を強いられ、適切な対処がされないまま見過ごされてしまうことがあると聞きます。
親からすると、家族間のことだから大事にしたくないという気持ちもあって、外部に相談ができず、福祉の支援を得られにくいということも理由にあるのかもしれません。漫画を読んでくれた当事者の方からの感想の中にも「自分よりも体の大きい兄からの暴力のせいで、生傷が絶えず、人に怪我を見られないようにいつも隠していた」との一文があり、普通の生活もままならない彼女の状況に、胸が締め付けられるような思いがしました。

――リアルな声に胸が痛みますね…。
うみこさん:障害者の方の人権を守ることは学校教育などでも触れられ、社会に浸透してきていると感じますが、その一方で、こうした被害を受けた人たちの存在は見過ごされがちです。解決策は少なく、家族との縁を切ることを選ぶ人もいらっしゃいます。
このような暴力に悩まされていた人や、親から将来、障害のある兄弟姉妹を見ることを期待されたり、強制されていたりしていた人など、それぞれ異なる事情で家族と縁を切る選択をした当事者の中には、親戚や知人から「家族なのに、縁を切るなんて」と咎めるような言葉をかけられた人も。
しかし、好き好んで家族と縁を切りたいと思う人はいません。自分の人生を生きるため、やむを得ずその選択をしているのです。だから、身近に家族との縁を切ったきょうだい児当事者の方がいたとしても、決してそのことを責めるような言葉はかけないであげてほしいと思います。
取材・文=宇都宮薫

