“買い物のしやすさ”もレシピ作りの重要ポイント
33センチはある分厚いステーキ肉を、次々と焼き上げていく——。 料理家でありオージー・ビーフPRアンバサダー日本代表も務める今井さんは、パーソナリティの小竹の声がけで、今年の3月にクックパッド社内で社員向けにステーキ教室を開催した。
20枚ほどもある立派な肉を焼きながら語られる説明は、論理的で誰にとってもわかりやすく、参加した社員一同、ただただ頷くばかりだったという。
「厚みのあるステーキは立てて焼きます。まず先に脂身の部分をカリカリベーコンのように焼き付けて、その後に両面を普通に焼くというやり方です。そうすると、脂身がムニャッとする感じがなくなり、サクッと歯触りが良くなるんですよね」

クックパッド社内で開催したステーキ教室より。肉厚のビーフステーキが並ぶ。
さまざまな料理教室も主催している今井さんは、料理を教える上手さにも定評がある。
「家でひとりで自由に料理するのと違い、受講者の方の目もあるし、私にも見られているし、やっぱり自分のペースでは料理がしにくいと思うんです。みなさんいつもよりちょっと緊張されていると思うので、その緊張をほぐすことを心がけていますね」
今井さん自身も「失敗しちゃうかも」と緊張することが多いからこそ、生徒さんの気持ちが理解できるのだとか。
「私は千切りがほんまに下手でなんです。レシピにも千切りって書いておきながら自分ではできていない。アシスタントの子のほうが上手で、『ここまで細かくしたらハードルが上がるから、もうちょっと粗くして』って言っちゃうほど(笑)」
自身は焦ると手が不器用になるタイプであり、夕飯の支度は焦りながら行っていることが多いため、そういったマインドでも失敗しないレシピをいつも意識して作っているそう。
「子育て中のお母さんとか、仕事から帰宅したばかりの方とか、仕事モードと家モードの切り替えって、すぐにはできないと思うんです。だから少しずつ家モードに入っていけるように、レシピをすごく見ないとできないものにはしないようにしていますね」
また、レシピを作る際には、“買い物のしやすさ”といった点も考慮しているという。
「材料が3つ以上になると、人は忘れるんです。3つくらいなら覚えていられるので、基本的には買い足すのは2つ。それで家に常備してあるものと組み合わせる。“買い出しが楽になるレシピ”という点も考えています。そこでつまずくと、『買い忘れたから目分量でいいや』となり、味がどんどんブレていって『このレシピいまいちやったな』となってしまうんですよね」
目標は「"作った人"がうれしいと感じること」
今井さんは現在、自身と夫と子ども2人の4人暮らし。全員の味の好みや捉え方がバラバラであるため、料理を食卓に出した後はそれぞれが好きに味付けをしていくという形にしているのだとか。
「このままで食べてほしいという作り手の方もいると思いますが、私は自分で味付けするのも練習になると思うんです。1から料理の手伝いをしなくても、食卓の上で味付けをして、『自分の好みはこうだな』とか『こういう味の方向性が好きだな』などと自分で見つけていくことも食育になる。だから、もう好きにしてっていう感じが多い。無駄な軋轢は生まないに限ります(笑)」
今井さんがレシピを考える上で目標にしていることは「作った人がうれしいと感じること」。
「毎日ご飯を作っていると、新しいレシピに挑戦しない限り、自分の味に飽きがくるんです。『またこれを作ってしまった』とか『結局また肉野菜炒めになったな』とか、作ったときも食べたときも味のゴールが見えているからテンションが上がらない。そんなときに、私のレシピに挑戦したらテンションがちょっと上がるというものにしたいんです」
「これだけでこの味ができるの?」とテンションが上がり、小さな幸せが積み重なっていくと、大きな幸せや大きな満足感につながるとの想いもある。
「『誰かに食べさせてみたい』とか『人を呼んでみたい』とか、『今度の持ち寄りに持って行こうかな』などと感じ、無駄なプレッシャーもなくなる。そんな風に、作り手がこのレシピに出会ってよかったと感じて、小さな幸せを得られるような料理を、私自身も作れたらいいなって思っています」
料理をする際に、「家族が笑顔になってほしい」「食べた人に喜んでほしい」という思いは根本にはあるが、ずっとそればかり考えていると、「自分のしたいことがわからなくなってくる」と今井さんは言う。
「それって、自分の幸せを他人に委ねることにもなるんです。自分の幸せはやっぱり自分で見つけたほうがいいと思うので、“自分が作りたい料理”をちゃんと作ってほしいんです」
夕飯などを作るときに、「自分だけが好きなものを1品入れてもいい」と今井さんは訴える。
「私の場合はホヤです。ホヤ刺しを見つけたらすぐ買っちゃう。別に誰も食べたいとは言うてないけど(笑)。食べたかったら食べればいいし、残しても私が全部食べるし。そういう自分だけの楽しみって大切ですよね。あと、味見の段階で一番おいしいお肉を食べていい(笑)。それは料理をする人の特権です。それをやりたかったら自分で作りなっていうことです」

