体験する芸術?「インスタレーションアート」の始まりと代表作を紹介

1024px-PikiWiki_Israel_84661_yayoi_kusama_exhibition草間彌生 展示会, PikiWiki Israel 84661 yayoi kusama exhibition, Public domain, via Wikimedia Commons.

今回は、インスタレーションアートがどのように生まれ、現代美術の重要な表現手段として確立されたのかを見ていきます。

インスタレーションアートとは何か

インスタレーションアートとは、特定の空間に設置される三次元的な芸術作品を指します。絵画や彫刻といった伝統的な美術作品との大きな違いは、作品が置かれる空間そのものが作品の一部となり、鑑賞者が作品を外から「見る」のではなく、その中を「体験する」ことにあります。

インスタレーションアートは大規模で複合的な素材を用いた構造物として定義され、しばしば特定の場所や期間のために制作されます。鑑賞者は作品を完全に体験するために、部屋やギャラリー空間全体を歩き回る必要があり、この点が絵画や彫刻などの伝統的な芸術形態と異なります。

この芸術形態の最も重要な特徴の一つが、サイトスペシフィック(場所特定性)という概念です。つまり、特定の場所のために制作され、その場所でのみ完全な意味を持つということです。

また、多くのインスタレーションは複数の感覚を同時に刺激します。視覚だけでなく、聴覚や触覚、時には嗅覚までも動員して、鑑賞者を包み込むような体験を作り出します。

「インスタレーション」という用語自体は比較的新しいものです。オックスフォード英語辞典によれば、この特定の芸術形態を指す言葉として最初に記録されたのは1969年でした。しかし、概念としてのインスタレーションアートは、この言葉が生まれるずっと前から存在していました。

起源となる作家と作品

インスタレーションアートの起源を探ると、20世紀初頭のダダイズムやシュルレアリスムといった前衛芸術運動に行き当たります。これらの運動は、伝統的な芸術の定義そのものに挑戦し、芸術と日常生活の境界を曖昧にしようとしました。

その中でも特に重要な先駆者が、Marcel Duchamp(マルセル・デュシャン、1887-1968)です。彼の《Fountain》(1917年)は、既製品である男性用小便器にサインをして展示したもので、「何が芸術であるか」という根本的な問いを投げかけました。

この「レディメイド」と呼ばれる手法は、日常の物品を芸術作品として提示することで、芸術の定義を拡張しました。デュシャンのこのアプローチは、後のインスタレーション作家たちが空間や環境を作品として扱う際の理論的基盤となっていきます。

もう一人、極めて重要な先駆者がクルト・シュヴィッタース(1887-1948)です。彼が1920年代から制作を始めた《Merzbau》(1923-1937年)は、インスタレーションアートの原型とも言える作品でした。

これはドイツのハノーファーにある彼の自宅の複数の部屋を徐々に改造していった環境作品で、廃材や日常品を使って洞窟のような空間を作り出していきました。現代美術館の記事によれば、この作品は1943年の空襲で破壊されてしまいましたが、現在ドイツのシュプレンゲル美術館には再構築版が展示されています。

シュヴィッタースの《Merzbau》が重要なのは、単なる彫刻作品ではなく、鑑賞者が実際に入り込んで体験する空間そのものを芸術作品としたことです。

この作品は約14年間にわたって継続的に変化し続け、まさに「生きている」芸術作品でした。彼は後にノルウェーに亡命してからも同様の試みを続け、さらにイギリスでも第三の《Merzbau》に着手しましたが、1948年の死去により未完成のまま残されました。

配信元: イロハニアート

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